【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~


あぁ、何?

あの不意打ち。
心臓に悪いって……。


一度、心停止した体なんだよ。
もう、どうしてくれるのよ。



なんてわけのわからないことを思い浮かべながら、
アタシはひたすら平常心を取り戻したくて深呼吸をした。


ふと、深呼吸をしながら向けた視線の先にうつるのは、
ずっと歌うときの相棒でいてくれたギター。



落ち着いたところで、ゆっくりと近づいて、
ケースの鍵をカチャリと開けた。


丸みのあるフォルムがアタシの前に姿を見せる。


そのまま床にぺたんと座ったままで、
足を立ててギターを引き寄せると、
久しぶりに弦に触れた。



ナイロン弦をこするような音。
懐かしい音色が、小さく響く。


幾つかのコードを押さえているものの、
暫く触らなかったツケは大きくて、曲としては程遠いものだった。


それでも今、こうやってギターに触れる自分自身にびっくりしている。

勢いで、声をコードに乗せてみようと思ったけど、
そっちはまだ早かったみたいで、アタシはあえなく撃沈。

すぐにギターをケースに戻して、片付けると部屋の隅に立てかけた。



「お嬢様?」

「三橋、大丈夫。

 少し触ってみたかっただけだから。
 煩いよね、もうやめるから」

慌てて、三橋の方へと出掛けて自分の部屋のドアを閉めた。


「お嬢様、旦那様とのお出かけ前に今日は、
 一人暮らしをされていたアパートを片付けたいとの仰せでしたが……」

「うん。
 昨日、そういったよ。ちゃんと覚えてる。

11時くらいにはもどってくるから。
少し出掛けてくるね」


そう言うとアタシは、ロンTにGパン。

そしてその上にコートを羽織って、スマホと財布と、
アパートの鍵をん鞄に詰め込んでマンションを後にした。


「奥様、お出掛けですか?」
フロントでコンシェルジュが声をかけてくる。


「えぇ」
「お車の手配は?」
「近くだから大丈夫。
 帰りは少し、荷物があると思うの」
「かしこまりました。
 お戻りになられましたら、お荷物は部屋までお運びいたしますね」


そんな会話を繰り広げて、アタシは地下鉄の駅へと向かった。

券売機で切符を購入して、電車を一本乗り継いで久しぶりに辿り着いたアパート。
そのアパートの前には、美織と澪が姿を見せてた。


二人には昨日、予定をきかれて「部屋の片づけ」の話をしてた。


「遅かったじゃん。
 如月」

「えぇ、待ちくたびれてしまいました」

「ごめんごめん。
 寒かったよねー」


そう言って、鞄から取り出したアパートの鍵を使って開ける。


少し埃っぽい部屋。
慌てて窓を開けて喚起すると、冷たい風が通り抜けていく。


「お茶入れるよ」


そう言って、冷蔵庫を開けるものの……、
中にあるものが古いことを思い出して、無言で閉めた。


「ごめん、ちょっと下にいってコンビニで買ってくるねー」っと
近所のフレンドキッチンへと向かう。



そこで暖かい飲み物を購入すると、
そのままアパート部屋へと戻った。


ストレートティーとロイヤルミルクティーとレモネード。


それぞれをテーブルに置くと、
思い思いのものを二人が選んでいく。

最後に残るのは、予想通りのロイヤルミルクティー。


微かなホット飲料の温盛に、幸せを感じながら荷造りを始めていく。


荷造りと言っても、殆ど段ボールの中から出していなかったから、
今から詰めるのもわずかである。


そんな中、開かずの段ボールよろしく【学院関係】と、
赤マジックで書かれたままの段ボールを見つけてそっと引き寄せた。


片付ける時間なのに、
無意識にべりべりとガムテープをはがして、中から分厚いアルバムを取り出す。

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