【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

そんなアタシを優しく見守ってくれる旦那様には、
そんなアタシの可愛くない行動の裏側に隠された本音なんて筒抜けで……。


だけどそんな見透かされたところまで、
くすぐったさを感じる。


これが今は惚れた弱みってやつなのかな。


そんなことを思いながら、光輝を見つめていると、
光輝は思い詰めた眼差しでアタシに何かを言いたげだった。


そんなシーンに、アタシ自身も緊張が走る。



「如月、三橋に聞いて知ってる。

 如月が、今、時々、俺に隠れてギターを奏でてること。

 ずっと今日まで、どうして隠れてこそこそやってるんだろうって
 今日まで思ってた。

 だけど竣佑に指摘されて、ようやく気が付けた。
 
 如月は自由だよ。
 三杉の家に嫁いではいるけど、三杉の家に縛られなくていい。

 そりゃ、奥さんとしての役目は最初話したみたいに勤めて欲しいと思うけど、
 俺は如月の歌が大好きだから……。

 歌うのをやめようって、思わなくてもいい。

 俺の妻が、ストリートミュージシャンで何処が悪い?
 かっこいいじゃん。

 あそこで演奏してるのが、俺の奥さんだよって、
 俺は堂々と宣言できる。

 だから、自由になれ。
 如月も、広い世界に飛び出していいんだよ。

 俺は閉じ込めたりなんてしない。
 その大海【たいかい】に、俺自身も一緒に飛び出していくから」



そう真っすぐにアタシを見つめて話してくれる、
光輝の優しさに泣きそうだった。


嬉しくて泣いてしまいそうなアタシを必死に何とか堪える時間。




「お二人とも、そろそろ夕飯をお召し上がりになりませんか?

 今日は、奥様がビーフシチューを作りたいと仰せになりまして、
 三橋がお教えいたしました」



って、三橋。
なんで今の、このタイミングなの?


そんなことを思いながらも、
三橋の言葉に反応した光輝は、
驚いたようにアタシに視線を向ける。


じーっと光輝が見つめている先が、
アタシの指先だと気が付くアタシ。


幻滅されるかもって怖くなったアタシは、
彼がアタシを気遣うように呼ぶ名前をかき消すように言葉を勢いよく吐き出した。



「如月……」


「大丈夫。

 ちゃんと頑張ったから、
 シチューの中にはアタシの皮も血も入ってないと思うから」


アタシってば何言ってるんだろう。


そりゃ、皮むき器でアタシの皮膚も削ったし、
血も出ちゃったけど……
それは誓って、料理の中には入れなかった。


いれなかったけどさ、
それって言わなくてもいいことじゃん。


穴があったら入りたい……。




その後は、沈黙したアタシにかわって、
三橋がいろいろとフォローして、今日の晩御飯は始まった。


嬉しそうに笑顔を見せながら食べてくれる姿が嬉しくて、
アタシは、そんな楽しいひと時を刻みつけながら過ごした。


夕食後、三橋がいつものように洗い物をしてくれる中、
アタシと光輝はリビングのソファーで寛いでいた。
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