【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~
「お嬢様、玉ねぎが焦げてしまいますよ。
もっと飴色になるまで頑張ってくださいませ」
「えぇー、もう、腕が疲れたー。
パンパンだよー。
何時までするのよー」
「後、15分はそのままで。
焦がさずに飴色になるまで炒めたら、今度は……」
三橋の教えに従って、
何とかビーフシチューの完成が目前に見えてくる。
「ねぇ、もっとシチューって簡単に作れるものじゃなかったの?
こんなに腕がパンパンになるなら、
やるなんて言わなきゃよかったー」
そうやってぶーたれるアタシに、
三橋はクスクスと笑いながら、
「美味しくできましたねー。
後は夕方まで寝かせて、
旦那様がお戻りの時にもう一度火を入れましょう。
旦那様の反応が楽しみですわね」
そう言って、
三橋はアタシが散らかし続けた流しを綺麗に片付け始めた。
その夜、光輝が帰ってきた時にアタシは真っ先に玄関まで迎えに行く。
三橋よりも先に、光輝の鞄を受け取って、
アイツの部屋の方へと向かって、光輝へと視線を向けた。
幾ら夫婦って言っても、
勝手に部屋に入るのは躊躇われるから。
「どうぞ」
光輝の許可が下りたアタシは、
ドキドキしながらその扉のドアノブへと手をかけてまわした。
モノトーンで統一されたような書斎スペース。
そこには大きなデスクが存在感を放つ。
そして中央には寛ぐためのソファーが姿を見せる。
壁際へと視線を移すと棚には、
真梛斗と一緒に映った写真が飾られていた。
「あっ、真梛斗だ……。
入学式……ちっちゃーい」
そう言って写真に手を伸ばすアタシ。
光輝はそんなアタシを嫌がるでもなく、
ジャケットを脱いで、ネクタイをシュルシュルと抜き取ると、
シャツのボタンを外して
「なんだったら、アルバムでも見るか?」っとクローゼットへと向かい、
分厚いアルバムをアタシの前へと出してくれた。
神前悧羅学院悧羅校 三杉光輝さんのあゆみ。
そう記されたアルバムを見て、
「うわぁ、一緒だー」っと思わず呟きながら、
最初の一頁を開く。
そこにはアタシのアルバムと同じように、
入学当初の光輝の両手足のスタンプがペタリと記されていた。
「そりゃ、同じ学校なんだから一緒だろ」
光輝からそんな突っ込みが入る
「ホント、真梛斗と光輝って、
兄弟みたいに一緒に居るねー」
アタシは笑いながら、
次から次へとアルバムをめくり続けた。
そしてとある頁でフリーズする。
学院祭で、全校生徒とゲストの前で歌ったそんなワンシーンを
何枚にも切り取られた写真たち。
何?
一枚だけじゃないじゃない。
歌ってる当の本人、
アタシのアルバムより枚数多いじゃん。
「うわぁ、勘弁してよー。
こんな写真まで後生大事に持っちゃってさ」
照れ臭いけど嬉しいのが本心。
だけど可愛げのないアタシは、
そんな抵抗を試みる。