【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

花嫁と違って花婿の支度なんて早いもので、
タキシードに袖を通してヘアを整えてもらうと、
支度を終えた俺は一足先に招待客を出迎えるための待合室へと向かう。



チャペル前の待合室には、
すでに招待した仲間たちが姿を見せてくれていた。


順番に親族に挨拶をして、
受付をしてくれる仲間たちの所に顔を出す。


受付で招待客の名簿を管理してるのは、
さっき真梛斗の墓で一緒になった、一綺や裕真。

そして学院時代のジュニアである紀天と、
テニス部の後輩でもあり紀天が転校した後のジュニアだった理人が肩を並べる。


紀天の隣には瑠璃垣の存在が居て、
もう待合室は賑やかだった。



「光輝、今日はおめでとう」

「ご無沙汰しております。
 本日は誠におめでとうございます」

立ったまま俺に話しかけてくる同級生。

悧羅スタイルで膝を追って祝福してくれる下級生。


そんな中、
俺が世話になったデュ―ティーも姿を見せる。


今は宇宙から戻ってきたばかりで、
連絡がつかないと諦めていたのに……その人は俺の前に姿を見せる。



「光輝、願いが叶ったね。
 裕が連絡をくれたんだ。

 可愛いジュニアの結婚式、楽しみにしてたんだけどなぁー」


そう言って、俺の傍へと近づいてきたデューティー。


奈良朔彩貴【ならさき さいき】。

宇宙飛行士の夢を掴み取った俺の自慢のデューティーで、
一綺の父親、現学院理事の綾音紫氏の親友の息子。


反射的に悧羅スタイルで膝を折ろうとする俺に、
デューティー彩貴は
「今日の主役がそんなことしちゃダメだ。素敵な一日に」っと窘めた。




突然のデューティーとの再会に、感極まる俺のもとに
その瞬間、来場者から【うわぁー】っと歓声が広がっていく。


その声の方に視線を向けると、
一綺の母親と、アイツの家族たちに囲まれて、
真っ白なウェディングドレスを身に纏った花嫁が姿を見せた。



恥ずかしそうに頬を赤らめて、近づいてくる如月。



「ほらっ、光輝。
 花嫁さんの登場だよ」



そう言ってデューティーに背中を押されて俺は如月の方へと一歩ずつ歩いた。



「光輝さん、今日は本当に娘の為に、
 こんなにも素敵な結婚式をプレゼントしてくれて有難う。
 
 娘に……如月に、
 何時かはこんな日が来るとは覚悟していたが……
 お目出度いが寂しいものだな」


そう言って、
いつもは控えめなお義父さんが俺に話しかけてきた。


「まだまだ至らないところもあるかと思いますが、
 如月さんは俺が全力で守ります。
 ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いします」


そう言ってお辞儀をすると、
如月の傍にいたお義母さんが

「まぁまぁ、至らないだなんて。
 光輝様が居たらなければ、如月なんてまだまだですわ。

 本当に馬子にも衣装なんですもの」


何度か重ねた蒔田家との食事会で、
多少は如月とその家族の溝は埋まってきたように思ったけれど、
まだまだ先は長そうだ。


「光輝、ほらっ、花嫁さんに何か言葉をかけないか?
 如月さんは今日の主役だぞ」


なかなか如月に声をかけようとしない俺に痺れを切らしたのか、
遠巻きに見ていた父まで輪の中に入ってくる。


一気に視線が集中しているのがわかる。


こんな中で、どう声をかけろって言うんだよ。

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