【B】箱庭の金糸雀 ~拗らせ御曹司の甘いぬくもり~

綺麗だよ。

こんなにも綺麗で、
今すぐにでも抱きしめてしまいたい理性を必死に制御して、
冷静に過ごそうとしているのに。



何も言えないまま黙り込んでいた俺に、

傍にいた一綺に
「如月さんが綺麗すぎて、声も出せないってさ」なんてチャチャを入れられて、
周囲に居た人たちから笑い声がわきあがる。



そんな中、結婚式の時間が迫ってきて、
チャペルの開場を告げるスタッフの声が周囲に響いた。



俺たちを囲んでいた招待客たちが、
ゆっくりとチャペルの中へと移動していく。


「光輝くん。
 孫をどうか幸せにやってくれ。

 家内が生きていたら、この姿をどんなに喜んだろうな。
 如月、幸せにおなり」


そう言って、ずっと押し黙っていた蒔田の会長でもあるお祖父さんが
俺たちに声をかけて中へと入っていった。


「さてっ、花嫁のスカートを手直しして
 バージンロードを歩く支度をせねばな」


そう言って、少し乱れてしまった形を介添え人が姫龍さんの指示で整えていく。


そしてお義母さんの手によって、
如月のヴェールダウンが始まろうとしていた時、

「光輝様、遅くなりました。
 よしさん、はつさんをお連れ致しました」っと、
二人を良く知る聖仁の父がホテルへと連れてきてくれた。




突然現れた、見知らぬ夫婦に【誰だろう】っと言う顔を浮かべる義父母。


そんな義父母を横目に「本日は誠におめでとうございます」っと、
よしさんと、はつさんは挨拶をした後、
まっすぐに如月の方へと向かっていった。


「えぇ……、嘘……。おじちゃん、おばちゃん……」


そう言う如月の目から今から本番だと言うのに、
じんわりと涙がにじみ始める。



「綺麗だよー。如月ちゃん」

「あぁ、とっても綺麗だ。

 新田さんといつも来てくれてた兄ちゃんが、
 如月ちゃんの旦那さんだったんだな。

 そうとは知らず、いつも愛想なくてすまなかった」


そう、よしさんは俺の方にも顔を向けてくれる。


「有難う。
 おじちゃん、おばちゃん」


そう言って如月が二人に両手をまわして、
抱きつきながら喜ぶ傍で不思議そうな表情を浮かべる義父母に
『如月さんが一人暮らしの際にずっと見守ってくださっていたバイト先のご夫婦です』っと耳打ちした。


「ほらっ、式はまだ始まっておらぬのに、泣くな」


まだ涙が滲む如月がよしさんと、
はつさんから離れたタイミングで、
声をかけた一綺の母親はその場でプロの仕事を始める。


「三杉様、蒔田様、そろそろお時間でございます」


高村さんのその声に、よしさんとはつさんも中へと聖仁の父親が誘導してくれる。

そしてお義母さんも如月のヴェールダウンをして、
中へと入っていった。


すると如月は今更のようにキョロキョロと視線を向ける。


「どうかしたの?」

「さっきから、星奈と陽奈の姿を見てない気がして」


そう言うと、お義父さんが
「星奈、陽奈、お姉ちゃんが呼んでるよ」っと、
何処かに向かって声をかけた。


二人は可愛らしい淡い色遣いのドレスを身に纏ってお化粧をしていた。


「えっ?
 
 何?二人とも、とっても可愛いんだけど」


そう言って如月は二人の妹に手を伸ばす。


「今日は、星奈も陽奈もお手伝いするの。

 お兄ちゃんが、ベールガールとリングガールをお願いしますって
 ドレスと一緒に頼んできたのー」

「そう、陽奈も星奈も緊張―するよー。
 でもお姉ちゃんとお兄ちゃんの為に頑張るのー」


そう言って二人は、
一綺の母と介添え人の指導のもと如月の長いいヴェールの裾を掴んだ。



「では、新郎様はチャペルの中へ」



その言葉に俺も、「後で」っと如月に声をかけて、
深呼吸をして一歩を踏み出した。

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