ディモルフォセカの涙

着せ替え人形

----

 実花さんと訪れた場所は、いつかのショッピングモール。----季節はもう冬で、入口付近には立派なクリスマスツリーが飾られている。ポインセチアの花があちらこちらに置かれ、店内のいたるところにクリスマスオーナメントがいっぱい飾られていて、キラキラと輝き見る者の心を躍らせる。


「かわいいね

 ユウ、見て見て
 あれ、素敵じゃない?」


 実花さんが指差したのは、綺麗に着飾ったトルソー(マネキン)が並ぶディスプレイ。その前には、黒い布製のテープが引かれていてトルソーには近づけないようになっていた。触らないでくださいと注意明記もされている。


「一番右のワンピース
 ユウに似合いそう」


 ちょうど私も、その洋服に目が止まっていた。デザインがとっても素敵。----その時だった、実花さんが手を伸ばしてトルソーに触れようとした。


「ミカ、危ないよ」

「生地、触って確かめたいなぁ」

「ちょっと待って」


 商品の説明が書かれたプレートには、販売しているショップの名前が記されていた。


「お店の名前、書いてある

 3階だって見に行ってみよう」

「ううん、もう、いいや
 
 面倒くさい
 
 ユウ、あっちから見て行こう」

「うっ、うん」

「ほらっ、行こう行こう」


 一目見て気に入ってしまった洋服、あの服以外はどれもこれもパッとしない。「ユウ、この服、いいんじゃない?」----実花さんは私のために、次々と洋服を見て選んでくれるけれど、どうしても欲しいとまでは思えなかった。
< 101 / 204 >

この作品をシェア

pagetop