婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~


 モヤモヤとずっと考えているのはもちろん嫌だ。

 この流れで聞いてしまおうかと、喉元まで声が出かける。

 だけど、やっぱりダメだと留まってしまう。


「里桜……? どうかした?」


 ひとり悶々としていると、正面で貴晴さんがじっと私を見つめていた。

 スプーンを置いて、小首を傾げている。


「なんか難しい顔してる。何か俺に言いたいことでもあるんじゃない?」


 全てお見通しの貴晴さんにぎくりとして、その視線から逃れられない。

 そんなにわかりやすく顔に出てた?

 言いたい、こと……。言いたいことは……。


「なんでも、ないですよ。気のせいです」


 気付けば言いたい言葉は誤魔化しの言葉にすり替わっていて、勝手に口をついて出てきていた。

 やっぱり、言えない。言えるはずない。


「あ、ビーフシチュー、いっぱい作ったのでまだ食べませんか?」


 話を変えるように言い、そそくさと席を立ち上がる。

 モヤモヤしたって、話を切り出す方が自分には難しい。

 こんなに頭を悩ますなら、モヤモヤしている方がまし。

 そう諦めがつくと、もうそれ以上頭を悩ませることもなかった。


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