婚前溺愛~一夜の過ちから夫婦はじめます~
駆け込むようにして入ってきたのは、焦り慌てた様子の貴晴さんだった。
この寒い中、コートも羽織らずスーツの姿のまま、こちらにむかって足早に近付いてくる。
目の前までやってくると、椅子に掛ける私を引き寄せるように立ち上がらせた。
「里桜……やっと見つけた」
両手でしっかりと私を抱き締める貴晴さんの、安心する大好きな香りが私を包み込む。
「帰ったらいないし、連絡もつかなくて、ずっと探してた」
「どうして、ここが……」
「いろいろ心当たりに連絡をして、里桜のご実家にも連絡をしてみたら、里桜が今から帰ってくるって、高速バスを待ってることを教えてもらえて」
なんだ、お母さんが話しちゃったのか……。
腕の中で微動だにせず、貴晴さんの声をただ黙って聞く。
貴晴さんは肩を掴んで私の体を離すと、真っ直ぐ私の目を見つめた。
「一体どうしたの。何も言わないで、急に実家に帰ろうなんて」
私がどうしてここに来てしまったのか、一番わかるのは貴晴さんのはずだ。
それなのに、どうしてこんなにしっかり私を見つめて、そんなことを訊けるのかわからない。
「とりあえず、帰ろう」
そう言って、貴晴さんは私の荷物を持ち、呆然と立ち尽くす私の肩を抱いて待合室を連れ出した。