恋ごころは眼鏡でも見えない
だて眼鏡の日

華世視点


「はあ!? あの地味眼鏡かよ!」


朝のホームルーム前の騒がしい教室内でも、比較的静かな私のオアシス。
こと教室の窓側、一番前の席までその声が聴こえてきた。


その声のする方を振り返る。


教室の通路側、一番後ろの席に数人が群がっていた。


教室内の一番遠い席にまで届く声で何を話しているのだろうか。
不思議に思って見ていると


「ちょっとぉ! 地味めが……小林さんに聞こえてるよ!」


様子をうかがう私に気づいて、女子生徒が男子生徒を諌める。
おいおい、女子生徒。君も地味眼鏡って言いかけたね? 事実だからいいけど!


そう。


私は自他ともに認める地味眼鏡、小林華世(こばやし かよ)。


高校2年生。黒ぶち眼鏡に、染めたことのない黒髪を後ろで一つにまとめている。スカートはもちろん校則通り膝丈。


見た目で学級委員長やってそうと言われるが、やっていない。
やりたくない。
そんな面倒くさいこと。


ちなみに華世なんて名前だが、これまで華やかさとは無縁の人生を送ってきた。


たぶん、これからも。


地味眼鏡と呼びかけた女子生徒が、自身の顔の前で合掌する。
ゴメンのポーズだ。


おーけー、私は右手でグーを作って上げる。これは(怒)のポーズを表現している。


女子生徒が声をあげて笑う。


うけた?うけた?おーけー、うけたなら良かった。


というのも、私は表情が豊かじゃない。
普通にしていると、感情が読めないとか愛想がないとかで怖がられてしまう。


だから、表情を3割増し(当社比)にして他人と接するようにしている。


私は努めて明るい地味眼鏡なのである。ちなみに、いじられキャラ万歳なので、どんどんいじって。


さてと……


正面に向き直り、心のなかで男子生徒、女子生徒にゴメンのポーズを決める。


なぜなら今日の地味眼鏡はだて眼鏡なのだ。


私は君たちが誰だか認識出来ていない。
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