恋ごころは眼鏡でも見えない
なぜだて眼鏡なのかというと、今日の朝寝ぼけて壊してしまったからだ。


家にあるはずの予備眼鏡も、最近使ってなかったから行方不明になっていた。
かといって、いつも眼鏡を掛けている身としては、眼鏡がないと落ち着かない。
眼鏡を掛けていないと、なんとなく人前で気恥ずかしい。


言うなれば、眼鏡は私にとって下着なのだ。


つまり眼鏡がないイコールノーパン状態だ。
私がノーパンで学校に行けるはずもなく、兄貴のだて眼鏡を借りたのだった。


眼鏡を外した裸眼0.1に教室の端から端まで見通す力はない。
なんとなくいるなー。なんとなくこういう動きしてるなー。ぐらいの認識なのである。


黒板の文字も見づらいから授業も散々な予感がする。後で真理(まり)ちゃんにノートを見せてもらおう。


それにしても、私が話題に上がるって何を話していたんだろう?
……悪口、じゃないといいなあ。


昔の嫌な記憶がよみがえって来る。


私はそれを振り払うように頭を振った。


「でも、地味眼鏡だろー?」


おおーい、男子生徒。
また聞こえてるぞー。

まだ話題はかわってないらしい。
ちなみに地味メガネは事実だから悪口にはカウントしない。


『えー私がなにー?』


なんて、会話に入る勇気はない。ビビりな地味眼鏡だ。


せめて誰が話しているのかぐらい知っておきたいなぁ。
振り返って、目をこらす。

……だめだ。見えない。


そうだ誰の席か思い出せばいいんだ!


あそこは確か……新山君だったかな?
新山陽向(にいやま ひなた)君、悪口を言いそうにない優しい王子さま系イケメンだ。


重いものは持ってくれるし、先生に押し付けられた雑用も手伝ってくれる、困った時に助けてくれる本物の王子さまのような存在。


そのモテっぷりは非公式ファンクラブまで設立されるほどだ。
私は入っていないけど、なかなかの過激派もいると噂は聞く。


新山君になにかしちゃったかなぁ?


クラスは一緒だけど、仲が良いわけでもない。
必要な時しか話をしたことがないような薄い関係だ。


先生に頼まれた雑用とか、よく手伝ってくれるから嫌われてはないと思うんだけど……。


そんなことを考えていると、担任が入って来てホームルームが始まってしまった。
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