恋ごころは眼鏡でも見えない
新しい眼鏡の日

華世視点

~華世視点~



『調子に乗るな。陽向に不用意に近付くなら制裁を下す。新山陽向ファンクラブ一同』

おおう。これは……。

ファンクラブ一同って誰。


今日、登校すると下駄箱にこんな手紙が入っていた。新山君と二人きりで話してたのを見られていたらしい。

それにしても、調子に乗るなとは? 乗ってないですよ。新山君とどうこうしたいだなんておそれ多い。そんなわざわざ牽制しなくても……。


殴り書きされたおどろおどろしい文字をみていると、背筋がぞわり粟立つ。

頭の中で、ファンクラブに近づくなという真理ちゃんの助言が響く。そうだね真理ちゃん、近づきません。

「おはよう小林さん」

その声に手紙をぐしゃりと握りつぶす。振り返ってあいさつを返す。

「おはよう……ございます新山君」

尻すぼまりの若干失礼なあいさつをしてしまった。噂をすれば、というやつで相手は新山君だった。

ファンクラブには近づかないけど、新山君はクラスメイトだからそうはいかない。

でもファンクラブの人が見ているかもしれないからと、ちょっと距離をとる。

「あ、眼鏡新しくなってる」

新山君は私の顔を覗きこむ。


顔が! 近いって!!


昨日はそんなに見えていなかったけど、新しい眼鏡をかけた今日は新山君のカッコいい顔がよく見えてしまう。

「うん、昨日買ったの」

距離をとりながら、応える。

「似合ってる、かわいい」

「……そんな、こと、ないよ」

だから、新山君はその顔でかわいいは卑怯なんだってー!

「えー? かわいいよ」

「……恐れ入ります」

あまり否定するのも卑屈っぽくていやだなと、新山君の言葉を受け流す。

それに、否定して「なにこいつ本気にしてんの?」ってのも嫌だし。



「今日、1限小テストだよね。対策した?」

「電車で気づいて、ちょっとさらった。新山君は?」

「やってない」

「あはは」

……。

これ、教室まで一緒に行くやつだ!
新山君はこんな地味眼鏡のこと無視して行ってくれていいのに!

けれど、無下にできないから当たり障りのない会話を続ける。自分の良い顔しいが憎らしい。

嫌われないように、人の顔色を窺ってしまう癖。

いつだって、この癖が一番私を傷つけるのに。

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