ポンコツ令嬢に転生したら、もふもふから王子のメシウマ嫁に任命されました
「なんで、何も話さないの?」

「食事中での会話は、晩餐会のときくらいだ。あれは、社交が目的だからな」

「そ、そんな!」

「アストライヤー家では、食事中会話をするのか?」

「あ……しない、わね」

「だったら、前世の記憶に残っているのか?」

「ええ、そう、だったわね。食事のときに、一日にあった出来事を話したり、どの料理がおいしいとか言ったり、野菜を残して怒られたり、おかずを取り合ったり。それが、食卓の当たり前だったの」

社会人になってからは、一人で黙々と食事を取ることも多かったので、生まれ変わってもそれが当然だと思っていたのかもしれない。

「ならば、私達はもう、家族なのかもしれない」

「私と殿下……リュカオンも?」

「そうだ。毎日、アステリアの料理の感想を言ったり、おいしいと伝えたり。家族でするものなのだろう?」

「そう、ね」

「私はアステリアが料理を作ってくれるようになってから、食事の時間を楽しく思うように心変わりした。いつも、感謝している」

「別に、私は、料理が好きなだけだから」

イクシオン殿下の言葉は、私の心をきゅんと刺激する。

生まれ変わって、物足りないと思っていたことは、貴族社会の家族のあり方が前世とまったく違ったからなのだろう。今になって、気付いた。

ぽっかり空いていた心の隙間に、いつの間にかイクシオン殿下とリュカオンが収まっていたのだ。

彼らは、私の家族のようになっていた。
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