距離感
時刻は8時40分を回った。

イモウトという単語に脳内がフリーズした。

「要ちゃんと俺はね、去年。同じ時期に中途採用で入社してね。本社で一緒に研修したんだ」

別に聴いてもいないのに。王子は語り始める。

朝からヘビーすぎる会話に頭がくらくらしそうだ。

「要ちゃんを初めて見た時、この子は色々抱えてるんだなって思った。美人さんだけど、その時はあまりにも痩せていて…。一度、研修中にさ、要ちゃん倒れたんだよ。体調があんまりよくないみたいで」

「はい…」

「見た目は大人っぽいけど、喋ってみると本当に5歳児っていうか。子供でさー。放っておけないんだよね」

「はい…」

何が言いたいのか。

のろけ話だったらやめてほしいと思った。

空はどんよりとした冬空で。

このままいけば雪が降るんじゃないかと思うくらい厚い雲に覆われている。

「周りは付き合っているって言うけど、訂正するのも面倒臭いし、要ちゃんもいちいち言わなくていいよって言うから。そのままにしていたんだけど」

「うん…」

「カッチャンに言われて考えたよ」

「はい…」

だんだん、相槌を打つのが雑になる。

「万が一、要ちゃんが俺のこと好きだとしても。俺は一切、恋愛感情がないと断言できる」

「…もし、要さんが告白してきたら? どう答えますか」

王子の整った横顔がこっちを向いて。

王子の茶色い瞳が私を映す。

「え、勿論。好きじゃないって答えるよ」

「……」

絶句した。

「そもそも、要ちゃんが俺のこと好きってことがありえないし。告白なんかしてこないって」

会社に到着した。

自分が一体、何をしたいのかわからなくなった。
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