【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
朝まで一緒に

「体調不良ということですが……」
「ぴんぴんしてますけどね……」
福原さんが首をひねるそばから、刈宿さんがうしろを通りすぎ、「やあ、レディたち」とウィンクしていく。
彼は一臣さんとの勝敗が決した翌日、“健康上の理由により”と本体への移籍を“辞退”した。
しかしそれ以降も、以前となにも変わることなく出勤し、エネルギッシュにキラキラした輝きをまき散らしている。
「めげない人ですねー。諏訪さんはこのままでいいって言ってるんですか? あれだけ理不尽なことをされておいて、結局お咎めなしってことじゃないですか」
「むしろあっぱれだと感心してます」
福原さんは「わからなくもない」と難しい顔でうんうんとうなずいた。
私はこれまで、一臣さんが刈宿さんを毛嫌いするのは、たんに性格的な相性の問題かと思っていたのだけれど、よく考えたら彼は最初から、刈宿さんの発する敵愾心をキャッチしていたのかもしれない。
と、一臣さんにも伝えてみたところ、彼は少し悩んだ末、『そうかもしれない』と新しい発見でもしたように言った。
そんなこんなで一か月ほどたったある日、一臣さんが本体の執行役員に就任するという内示が出た。
「花恋!」
廊下で突然名前を呼ばれ、手をつかまれた。
階段を駆け上がってきたらしい一臣さんだった。「花恋じゃなかった、左藤さん」と呼んだ彼のほうが慌てている。
「はい」
「ごめん、間違えた……」
「言い直さないほうが目立たなかったのでは……」
おそるおそる周囲を確認してみる。立ち話や電話をしている何人かのうち、こちらにちらちら視線を送っている人が、いるにはいる。
だけど私の下の名前はマイナーだ。彼がだれを呼んだのか、理解している人は少ないだろう。
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