【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
2年前に取締役COO──最高執行責任者、つまり実務部隊の長──に就任した諏訪さんは今年34歳。営業出身らしい軽快なフットワークと高い会話術、相手の反応から真意を読み取る能力を活かし、三段抜かしで階段を駆け上がってきた。
ビジネス誌などにもたびたび登場するため、彼に憧れて入社してくる人もいる。
女性のファンはもっとわかりやすく多い。社内外に彼のファンがいる。アシスタントである私の立場を『いいなあ』と言う人もいる。
そういう人たちは、知らないのだ。
彼のこの、どうしようもない子どもっぽさを。
「ヘリが飛んでる。事件でもあったかな」
「どう見てもマスコミではなく輸送機です。話をそらさないでください」
残念ながら私には、人の容姿を形容する語彙がない。芸能人にも詳しくないから、だれに似ているとか、こういう系統だとか例えることも難しい。
彼について言えるのは……、背が高く、顔立ちが整っていて、髪は長くも短くもなく……、たまに眼鏡をかけている。このくらいだ。
目が印象的だと思う。それはとても思う。
そのはっきりした印象的な目が、なにかを思いついたようにきらめいた。
「そんな頼もしい左藤さんに、さらに頼みごとをしてもいいかな」
「まず刈宿CMOとお会いになってください」
「昨日、営業から提案のあった新しいプランを検討してみたんだ。いいと思う」
私はそっとため息をついた。一度つかまると長引く刈宿さんを避けていたのは、それに時間を使いたかったからか。
結局、この人はだれよりも仕事が好きで、働き者なのだ。
社員180名ほどの大きくない会社だ。今でも彼みずからが取引のフロントとして動いたりもする。
「プレゼン資料にするんですね? 検討の際のメモをいただけますか」
「さすが、話がはやい」
諏訪さんはうれしそうに笑い、黒い表紙のA5サイズのノートを私に差し出した。彼がアイデアや予定を書き留めておくためのものだ。
受け取って開いた。
最新のページにしおりが挟んである。人に解読させる気のまったくない、乱れに乱れた字。
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