【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
近すぎて焦点も合わないくらいの場所で、彼がささやいた。
「ほんとにするよ」
なにをですか、と反射的に聞きそうになった。
違う、それはだめだ。私はもう、知識や経験がないことを理由に、気づかないふりをしていてはいけないのだ。
一臣さんが言おうとしていること。しようとしていること。
そして、私もしたいと思っていることに。
素直に、心に従うんだ。
「……はい」
彼が微笑んだような気がした。
しかしなにせ、唇どうしが触れあうなんて体験をしたのはじめてだったから。
それが事実かどうか確かめるすべもなく、私は彼のスーツとワイシャツを抱きしめ、息を止めて、たぶん真っ赤な顔で、身を硬くしていた。


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