【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
目をぎらぎらさせて、福原さんは私のほうへ手を伸ばした。
「左藤さん、最近メイクすてきじゃないですか。今日のリップ、新しい眼鏡とすごい合ってます。アイメイクにあまり色を使ってないのも正解です。眼鏡メイクって奥が深いんですよ、専門の雑誌が発行されたくらいで……」
近い、怖い、怖い。
思わずじりっとあとずさった。福原さんの目つきが、はっと正気に戻る。
「ごめんなさい。私、かねがね、左藤さんは逸材だと思っておりまして」
「逸材、ですか」
「メイク映えする素材といいますか。地の顔の主張が強くないといいますか」
「すみません、地味顔で……」
「いやいや、まさにアジアンビューティの代表格ですよ。黒いバージンヘア、きめの細かいアイボリーの肌、すっきりした目元、ぽってりした唇!」
今、唇の話はしないでほしい。またしてもぶり返し、「恐れ入ります」と私は手で顔をあおいだ。
「左藤さんはデパコス民とお見受けしましたが、プチプラにご興味は?」
「あ……えっと、デパコスにこだわりがあるわけではなくて。私、無知なので」
生まれてはじめて“デパコス”という言葉を口にした。大きな声では言えないが、デパートコスメの略であるということを知ったのも最近だ。
「まずは、最上級のものを知ろうと思って。知ってから、それが自分にとってオーバースペックだと感じたら、価格帯を下げていけばいいと……その、知人が」
「そのお友だち、正しいです。プチプラの真のすごさは、ハイブランドを使っていないと語れませんから」
正しいそうです、一臣さん。
「いつかプチプラに興味が出たら、私にプレゼンさせてくださいね。取り急ぎ、本日はごあいさつまで! 失礼します!」
メールの文末みたいな文句とともに、福原さんは洗面所を出ていった。
気づけば休憩時間ももう終わる。
私は笑いだしそうな気分で、忙しい一臣さんのもとへ戻った。
一臣さんはいなかった。そして彼の席にはなぜか刈宿さんが座っていた。
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