【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
手持無沙汰そうにタブレットを眺め、くるくると椅子を回していた刈宿さんが、私に気づき、「やあ」とにっこりする。
「彼は内密の電話をしたいとのことで、出て行ったよ」
「そうですか」
十中八九、刈宿さんといるのがいやで逃げたんだろう。
彼の場合、人に聞かれたくない話をするのであれば、この自席こそがもっとも適した場所なのだ。
言い訳すらも適当なあたりが、本当に子どもっぽい。
察しているのかいないのか、刈宿さんは気にするそぶりもなく、卓上のメモ帳をぱらぱらとめくっている。
そのへんに機密はないから、私も特に咎める必要もない。
「昨日、本体でだいぶお疲れだったみたいだね」
「そうですね、コアプラザに問題があったそうで、深夜まで……」
帰らなかった、と言いかけたのを飲みこんだ。私が彼の帰宅時刻まで知っていたらさすがに変だ。
けれど刈宿さんの興味は、そこにはなかったらしい。
「なるほど、コアプラザの件だったのか。今回の絨毯爆敵の件でなく」
「ええ。解決したそうですけれど」
彼はにこっと笑い、デスクに両ひじをつき、手を組んだ。
「きみと僕の、食事の話をしてもいいかな?」
「留守を任されてくださって、ありがとうございました、刈宿さん」
そこに冷ややかな声がした。一臣さんが戻ってきたのだ。ガラスエリアの入口に立ち、口元ほど笑っていない視線を自席に向けている。
「残念、お館さまのお帰りだ」
「営業部隊は目標を大幅に過達して終わりそうですよ。この勢いを来期につなげましょう」
「そうしよう。恒常的に彼らの力が欲しいなあ」
「今回のはドーピングだと思ってください。自社の営業員のレベルアップをはかるほうが、長い目で見たら我々のためになりますよ」
「ま、そうだね」
肩をすくめ、刈宿さんが立ち上がった。通りすぎざま、私の肩を叩いていく。
「午後は自席で進捗を見守ることにしよう。左藤くん、また連絡するよ」
「はい……」
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