【極上旦那様シリーズ】きみを独り占めしたい~俺様エリートとかりそめ新婚生活~
再びぎくっとしてしまう。その発言を笑えないくらいには、私も年齢的なリミットを気にして今に至るからだ。
砂糖を溶かしながら口をとがらせる。
「そんなに慌てて結婚だけ目指したところで、ひとりでできるもんでもなし。だったら好きなことしてようって今は思ってます」
ひとりでできるもんでもなし。
……本当にそうですね。相手がいて、家族も巻きこむ。
結婚が頓挫したこと以上に、そこに考えが至っていなかったことに打ちのめされる。相手を気に入ってもらえたらそれで完結。そのくらいに考えていた。
「このビル、地下にセミセルフのコスメショップがオープンしたんですよ。帰りにさくっと寄っていきませんか」
「セミセルフ?」
「デパコスのセレクトショップみたいな感じです。気楽に試せていいですよ」
へえ……。いったいこういう情報は、どこで手に入れるんだろう。
私が乗り気になったのを見てとり、福原さんがほっとしたような笑顔になった。
「やっぱりコスメって、見てるだけでいいですよね! 上げていきましょ!」
彼女が突然ランチに誘ってくれた理由が、ようやくわかった。
そんなに元気のない顔をしていただろうかと、反省して頬をこする。あとで鏡をちゃんと見て、落ち気味の気分を色とツヤで補おう。
そうと決まれば、と福原さんが紅茶をひと息に飲み干す。その飲みっぷりに笑い、そういえば今日はじめて笑ったかもと気がついた。
仕事場での交友関係というものを、重視してこなかったことを悔いる。
楽しい。
この楽しさをくれたのも、もとをたどれば一臣さんだ。
彼も今日は、どこかふさぎこんでいた気がする。言葉少なに仕事を進め、刈宿さんのちょっかいにも悪態をつくことはなかった。
私たちには時間が必要だ。
だけどいったい、いつまで? 


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