庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす


 いくつか試着させてもらい、結局最初に着たドレスに決まった。長い間きついドレスに縛られていたから、式場を出た時にはぐったりとしていた。

「大丈夫か?」

 隣を歩く千晃くんが心配そうに覗き込む。

「うん……結婚の準備がこんなに大変だなんて思ってなかった」

 千晃くんのタキシードはあっさりと決まった。どれを着てもかっこよくて、リアル王子様だった。女性スタッフのテンションが私の時よりあからさまに高かったのも無理はないと思う。旦那さん、どこかのモデルさんですか? とコソっと聞かれたし。


「お腹すいたなぁ。ラーメンでも食べて帰ろうか」
「いいね! 行きたい! どこのお店行く?」
「ラーメンと言えば豚骨だろ」

 聞いただけでごくっと喉が鳴る。やっぱ県民食って恋しくなる。だけど残念なことにここへ来て本場に近い味に出会えていない。そのことを千晃くんに話すと、あーわかるとすぐに同調してくれた。

「俺も知り合いに教えてもらって何軒か行ったりしたけど、どれもちょっと違うんだよな」
「そうなの」

 期待して行くも、やっぱり地元の味とはどこか違っているということがお決まりのパターン。だからここで本場の味を求めるのは難しいと諦めつつある。

「でも俺いいところ知ってるんだ。椎花絶対好きだと思うよ」
「え? ほんと?」
「まじまじ、来て、こっち」

 そう言って私の手を取ると、子供のような笑顔で私を連れて行く。さっきまでスタッフの人にキャーキャー言われていた人とは思えないくらいのはしゃぎっぷりで、こんな顔を見られるのは私だけなんだと思うと、ちょっと嬉しくなった。

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