庇護欲を煽られた社長は、ウブな幼馴染を甘く攻め堕とす
 

 翌日、仕事を終えた私はその足で警察署に向かった。着くと千晃くんの言った通り、ひったくられた私のバッグがここに保管されていた。
 
 警察の話によると飼い主と散歩中の犬が、どこからともなく私のバッグを拾ってきたのだとか。その中に私の名刺が入っていたらしく、それで飼い主さんが届けてくれたらしい。

 見つかって嬉しい反面、ぼろぼろのバッグを目の前にすると悲しい気持ちになる。ところどころ錆ているし、穴も開いている。どうあがいても使えそうにない。処分してもらってもよかったが、こんなぼろぼろの盗難品でも警察は引き渡すことが義務なのだとか。

 再び事件当日の調書と指紋を取られ、少し切ない気持ちで警察署を後にした。

「はぁ」

 紙袋に入ったバッグを眺め溜息を落とす。あの事件の時は、違うことで頭がいっぱいだったせいか、今更になって怒りが込み上げる。心機一転でよかったと昨夜は思ったけど、こんなものを見せられるとやっぱりショックだ。

 入社したばかりの時、慣れない仕事で精神的にも参っていた自分へのご褒美と称し買ったバッグ。結構値段が張ったし、買うのに勇気がいったのに。それなのにこんな形になるなんて……。

 とはいえ、うだうだ考えたって時間は戻らない。こんな時は甘い物でも食べてストレス発散だ。夜にでも千晃くんと一緒に食べよう。そう思い直し、お気に入りにおケーキ屋さんへと足を進める。

 すると、少し歩いたところで、正面から歩いてくる男性に目が留まった。明るめの髪に、緩めの服装。それにあの大股で歩く感じ……。もしかして遥斗?

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