優等生の恋愛事情
今夜こうして来たのは、数学の宿題を教えて欲しいと頼まれたからだった。

それは本当で、これからきっちり勉強もするんだと思う。

僕もわりと集中しようと思えばできるほうだけど、ロクちゃんはもっとすごい。

セルフコントロールというか、オンオフの切替と集中力と瞬発力が半端ないのだ。

そういうところ、スポーツやってる連中ってすごいのかなぁって感心する。


「おまえと溝口さんって、おっとりした感じするもんなぁ」

「ほっとけよ」

「でも、キスぐらいしたんだろ?」

「教えない」


彼女とのことを聞かれるだろうなとは思っていた。

そして、僕は決めていた。

ふたりの間のことは決して言わない、と。

ロクちゃんだけでなく、誰にも言わない。


「なんだよ、秘密主義?」

「そうだよ」

「俺は“してない”と見た!」

「だから、教えないって言ってるだろ。言わないよ、絶対」


断固拒否すると、ロクちゃんは愉快そうに笑って「へいへいわかりましたよ」と降参した。


「まあなあ。おまえ、してたとしても自慢こいて“とっくに済ませてるけど?”なんて言うタイプじゃねえもんな」


内心「さすがロクちゃん!」と思った。

野郎ばっかで集まってだべっているとき、彼女持ちがいたりすると“そういう話”になるのはよくあること。

やれ彼女とどうなってるだの、どうしただの、どうなっただの。

男って本当バカで。

彼女との仲をどんどん先に進められた奴のほうが偉いみたいな、そういう価値観がある。

だから、進展度を自慢げに話す奴もいるし。

興味本位でおもしろおかしく話を聞き出す奴もいる。

僕だって興味がないわけじゃない。

むしろフツーに関心あるわけで……。

でも、優等生ぶるわけじゃないけど、野郎連中の雑談で、彼女とのあれこれをぶっちゃけるのって、ちょっとどうかと思うのだ。

少なくとも、僕自身は勘弁って感じ。


「そういや、夏祭りで八代に会ったって?」

「うん。あいつから聞いたの?」

「ああ。おまえ、八代の彼女見た? すげー可愛いって噂の」

「うん。まあ、会ったかな」

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