優等生の恋愛事情
だって、諒くん黙ってるし。

すごい気になるけど顔見る勇気とか出せないし……。

どうしていいかも、どうしたいのかもわからないまま、それでもどうにかしたくて。

私は、あわわってなりながら喋り続けた。


「あ、中断させちゃってごめんねっ。えーと、間奏が終わったとこから始める? それとも――」

「聡美さん」


彼の声は静かでまっすぐで、とてもとても優しかった。


「キス、してもいい?」


息が止まるくらい、心臓がどきんと跳ねた。

初めてだから、どうしていいかはわからない。

でも、どうしたいのかはわかってた。

自分の気持ちは、ちゃんとわかっているから。


「……うん」


彼の大きな手が、私の肩にそっと触れる。

ぎこちなく甘い空気が部屋いっぱいに漂って、胸がきゅうっと切ない感じ。


「僕も、ずっと好きだったよ」

「うん……」

「ずっと、聡美さんのことだけ好きだった」


私たち、もうつきあってるのに。

なんだかようやく想いを伝えあえた人たちみたい。


(私も大好き。ずっとずっと大好き)


言葉で応えるかわりに、ぎこちなく近づく優しい気配に、ドキドキしながら目を閉じた。

唇が重なるその感触は、ふわっとしてて柔らかくて。

触れ合っていたのは一瞬だったような? もっと長い時間だったような?

とにかくもう心臓バクバクで、心の中がてんてこまいだった。


「僕、今まで生きてきて1番緊張した……」


彼のこういうところを、たまらなく好きだと思う。


「私もすっごい緊張したっ」


今だってドキドキしてて、どんな顔していいかわからないし。

私は彼に背中を向けるようにして座りなおした。

これじゃあまるで拗ねてるみたいって思ったけど、本当にもう恥ずかしくてどうしようもなくて。


「もうね、ドキドキしすぎて心の中で“キャーッ!”ってなったもん」


すると、彼も同じようにして向こう側を向いて座った。


「かなり“大忙し”だったよ、僕も」


ちょうど背中合わせの格好のまま、どちらからともなく緩く手をつなぐ。


「僕、何もしないって言ったのにね」

「今のはノーカンでしょ?」

「うん?」

「だって、私が嫌なことでも怖いと思うことでもないんだから」

「そっか……うん、そうだね」

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