優等生の恋愛事情
見つめ合って「好き」って囁き合うのも素敵なんだろうなって思う。

でも、私はこんなふうに話している今がすごく愛おしく思えた。


「私ね、世の中のカップルはみんなこうしてドキドキしてるのかぁとか思っちゃった」

「僕は、眼鏡って意外と当たらなくて大丈夫なんだなぁとか思ってしまった」

「へ?」

「いや、ガンッて当たったりしたら悪いなぁとか地味に心配で」


女の子が「キャーッ!」ってなってる間も、男の子はどこか冷静なところがあるのかも?

私は眼鏡のことなんて考えもしなかったもの。


「私も眼鏡で眼鏡同士だったら、ガチャンてなったりするのかな?」

「どうだろうね」


彼が「したことないからわからないな」と笑う。

私はちょっとした好奇心で聞いてみた。


「試してみたいとか思う?」

「えっ……」


(あ、諒くんちょっと動揺してる?)


戸惑う彼が可愛いなんて、私って意地悪だ。


「眼鏡かけてるときもあるよ、私」

「そうなの??? じゃあ普段はコンタクト?」

「うん。中3のときからかな」

「知らなかった」

「うん。たぶんいま初めて言った」


中学で、視力が下がって矯正が必要ってなったとき、私は断固として眼鏡を拒否した。

理由は簡単、学校で何か言われるのが嫌だったから。

“自分が気にするほど他人はこちらを見ていない”なんて、中学校の教室では当てはまらない。

うるさいくらいに視線が交差して交錯して、過剰に意識し合っているのが現実だ。

小さな変化にも目ざとく反応する女子たちの中で、わかりやすい外見の変化はおもしろいネタでしかないもの。


「中学のときは絶対に学校ではコンタクトだったけど。高校入ってからは眼鏡で行っちゃう日もあるよ」

「じゃあ、眼鏡の聡美さんにもそのうち会えそうだね」

「そのうちね」

「そのときは、眼鏡がガシャンてなるか試してみたいかな」

「う、うん……」


さらっと言う彼に、今度は私のほうが動揺してしまった。

そのことに、彼が気づいたかどうかはわからないけど。


「カルピス、薄まっちゃったなぁ」


彼は立ち上がると、机の上のカルピスのグラスを手に取った。

私も隣に並んで自分のグラスをのぞきこむ。


「本当だ。氷けっこう溶けちゃってる?」

「もう5倍希釈じゃないね」

「でも美味しいよ?」

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