優等生の恋愛事情
氷が少し溶けていても、飲んでみたら普通に美味しくて、口の中にどこか懐かしいまあるい味が広がった。


「このカルピス、もともと少し濃いとかない? なんかほら、限定とか書いてあったし」

「どうだろう? けど、そう言われて飲んでみたら濃い気がしてきたかも、僕も」


カルピスを飲みながら熱心にカルピスの話をしてる。

でも、心のフォーカスはまるで別のところにあたっているような、そんな気がした。

勘違いでなければ、私だけでなく彼も。

静かな部屋はとろんと甘い空気でいっぱいで、恋しい想いがどんどん溢れていくみたい。

たぶん、私たちは同じことを考えてる。


“もう一度”


言葉を交わさなくても、それがわかった。

だから、自然に手を取り合って向かい合った。

引かれ合うように、とても自然に。


(なんだろう? ドキドキして、ふわふわして、甘くて不思議な緊張感)


彼の右手が私の髪に柔らかに触れる。

眼鏡の奥の静かな瞳が、ぎこちなく微笑む私を愛おしそうに見つめてる。

髪に触れた手のひらから、緩く絡めた指先から、切ないくらい伝わる想い。

そうして、私たちは静かに唇を重ねた。

空いている手を彼の胸にそっとあてると、鼓動が伝わってくるような、そんな気がして嬉しくなる。

ゆっくりと唇を離すと、彼は穏やかな声で言った。


「抱きしめてもいい?」

「うん……」


ぎゅっとじゃなくて、ふわっと。

緊張してなんだか小さくなってる私を、彼の腕が優しく包んでいるみたいな、そういう柔らかな抱きしめ方。

そうして――。

おずおずと彼の背中に手をまわすと、甘くて優しい気持ちがふわぁっと広がって、今まで知らなかった心地よさに包まれた。


(私、ちゃんと、抱きしめあえてる……の、かな?)


「可愛すぎる」

「諒くん、彼女フィルターかかりすぎ」

「ンなことないさ。具体的に説明する?」

「30字以内。句読点も含むよ」

「そんなんじゃ収まらないよ。可愛いとこありすぎて」

「じゃあ、数式か何かで」

「余計に難易度上がってるよ」


(諒くん、大好き)


私、自分が思っているよりずっと、ずっとずっと前から彼のことが好きだった。

そのことを、痛いくらいに知ってしまった。

そして、彼のこと、もっともっと好きになっちゃった。


(学校とかではカルピス飲むのやめておこう……)


だって、今日のことを思い出してしまいそうで。

そんなことになったらどうしようもないもの。

本当、恋ってどうしようもないんだから。









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