優等生の恋愛事情
たぶん、私が二次会には行かないだろうって三谷くんはわかっていたんだと思う。

でも、こんなふうに声をかけてくれるなんて。

今日はもう三谷くんとは話せないって諦めていたのに。


「あのっ、行かないので……はい、うん」

「よかった……」

「え?」

(何だろう? 一瞬だけ、ほっとした表情をしたのは気のせいかな?)

「いや、何でもない……。じゃあ、みんなが移動はじめる前にさっと出よう」


そうと決まればと、私たちは足早に店をあとにした。

会費は二人して高崎君に預けてきた。

連れ立って出ていく私たちを見て、高崎君は「え???」と目をぱちくりさせていた。

高崎君だけじゃない。私たちに気づいた人たちは、好奇の眼差しを向けていた。

でも、そんなのどうでもよかった。

だって、三谷くんはちっとも気にしていないみたいだったから。


「早く出てきて正解だよ。残っていたら今頃、僕も溝口さんも千円札をひたすら数えるはめになってたよ、絶対に」

「面倒なことはクラス委員まかせってやつね」

「損な役回りはもうたくさん」

「うん」

「出てくるときに“逃げやがった!”みたいな目で見てた奴がいたけど気にしない」


三谷くんの清々しい笑顔が、私の気持ちを一気に晴れやかにする。

心がすっとして、嬉しくて、わくわくする。


「授業をサボって抜け出すのって、こういう感じと似てるのかな? 私はしたことないけど」

「どうかなぁ。僕もサボったことないからわからないや。でも……なんか楽しいね」

「うん。なんか楽しい」

 
< 26 / 169 >

この作品をシェア

pagetop