優等生の恋愛事情
石畳の道は下駄だとちょっと歩きにくい。

しかも、浴衣だし。

だからいつもより小さな歩幅で、転ばないようにと慎重に歩く。

たどたどしいというか。

おぼつかないというか。

そんな様子の私を見ながら諒くんは言った。


「ちょこちょこ歩いてるの、なんか可愛いね」

「えっ……あ、うわっ」


ちょうど彼を見上げた瞬間だった。

はしゃいだ子どもたちが、私のすぐそばをじゃれあいながらかけて行った。

咄嗟によけようとしたら、私はバランスを崩してよろめいて――。


「大丈夫???」


彼に、抱きとめられていた。

諒くんはガッシリというタイプではないけれど、腕も胸も肩もやっぱり頼りがいがあって。

その腕に包まれていると、守られてるんだなって、すごくすごく実感する。

もちろん、並んで歩いているときだって、いつも守ってもらってる。

でも、そのときの安心感とはどこか違くて……。


(どうしようっ)


速まる鼓動に、胸が切なく熱くなる。


(困ったな、もう……)


心の中でひとりごちて、ひっそり甘いため息をつく。


「聡美さん?」


諒くんは私の顔をのぞきこむようにして言った。


「危ないから、僕にちゃんとつかまっていて下さい」


その声がとても優しかったら。

少し照れたその笑顔がたまらなく愛おしかったから。

私は「はい……」と小さく返事して、大きく大きく頷いた。


諒くんはいつだって私に合わせて歩いてくれる。

今は腕を組んでいるせいか、いっそう気遣われている感じがする。

不慣れな下駄と浴衣のせいで、私は思い切り彼を頼っていた。


「私が派手に躓いたら、諒くん巻き込まれちゃうね」


冗談で言った。

だって、彼はきっと私を守ってくれるもの。

だから、照れ隠しの冗談。

それを彼はわかっているのかいないのか。


「そのときは派手に巻き込まれるさ」


彼は朗らかに笑った。


「一蓮托生」


諒くんのこういうとこも好き。

つられて私も笑う。


「死なばもろとも?」

「そうそう」

「旅は道連れ?」

「世は情け」

「もう、類語シリーズだったのに」


わざと恨めしそうに彼を見上げる。

そんな私を愛おしそうに彼が見下ろす。


(ああ、もう……)


じんわりと胸に広がる甘酸っぱさ。

私はたまらない気持ちで目を伏せた。
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