Fairy
気が付くと足音は聞こえなくなっていて、恐る恐る振り向くと、そこには誰もいなかった。
息を切らしながら、気持ち悪いほどの安心感に包まれて、その場に座り込み、よかった、よかった。そう何度も呟きながら、震える腕を必死に擦る。
どれくらいの距離を走ってきたのか、ここがどこなのか、全く分からない。自然と涙がポロポロ零れて、道の隅で震えながら声を押し殺して泣いた。
早く戻らなきゃ。そう思う余裕もなくて、体が震えて、動くことが出来なかったのだ。
[ おねーさん、どうしたの? ]
いきなり頭上から聞こえた声に、思わず体をビクッと震わせる。低い声で男の人だと分かり、私は顔を上げることが出来なかった。
ガタガタと震えたままでいると、先程とは違う男の人の声が聞こえてきた。
[ 大丈夫?なんかあったの? ]
先程とは違う柔らかい声に、思わず顔を上げた。
そこに居たのは、三人のガラの悪い男の人達。顔を上げたと同時に、物凄いお酒の匂いが鼻を刺激する。
周りを見渡すと、見たことのない街。
人気が無くて、暗くて、少し…いや、かなり不気味な所だ。お酒の匂いがするこの人達も、危険な人なのではないか。
そう思って何も言えずにいると、そこにいた一人が、再び口を開く。
[ おねーさん、見ない顔だけど。名前なんて言うの?]
「 ……は、花咲、紗來。 」
見た目とは違った優しい声に、私は思わず名前を口にしてしまった。
もしかしたら迷子になった私を助けてくれるかもしれない、なんて。そんな淡い期待を抱いて。
見ない顔…と言うことは、ここは小さな街なのかな。
だんだん落ち着いてきた頭の片隅で、そんなことを考えた。そんな私を見て、[ 聞いたことねぇな…。 ] と呟く人も居た。