Fairy
リビングには誰もいなくて、ガラステーブルには化粧品に疎い私でも分かるような、高そうな化粧品がずらりと並べられていた。
「 あの…今から、何をするんですか? 」
『 まあ座ってて〜。紗來ちゃんを紅苺ちゃんに変身させるのが、俺の仕事だからさ。 』
言われるがまま座っていると、游鬼さんは私に慣れた手つきでメイクを施し始める。
…そうだ。そういえば私、今日晴雷さんに仕事に来てもらうって言われてたんだった。
私を見るその目は真剣で、癖のようなものなのか、たまに唇を舌でペロッと舐める。車の中でキスされたことを思い出して、ちょっとだけ顔が熱くなった。
器用に、私より上手いんじゃないかってくらいに手際よく化粧を済ませる。
そして最後には、昨日と同じように口紅を塗った。
『 よし、メイク完了〜。 』
そう言ったかと思うと、今度はコテを手にして私の髪を緩く巻き始める。
火傷したら危ないから動かないでねー、と言いながら、私の長くも短くもない髪を触った。
髪が巻き終わると、今度は『 これに着替えて! 』と、紙袋を手渡してきた。中を見てみると、そこには真っ黒な洋服が入っている。
取り出してみると、それは大人っぽくて綺麗な、ワンピースのようなドレスだった。
『 はーやーくー!ほら、後ろ向いてるから!』
「 えっ、でも…。 」
游鬼さんは小さい子供のように言いながら、くるっと後ろを向く。少し抵抗を感じながらも、私は急いでそのワンピースに着替えた。
…ものの、袖はレース生地になっていて着慣れないし、スカートの丈は膝よりも上で。
普段はこんな綺麗な服着ないし、なんだか落ち着かない。
恥ずかしいけど、これを着なくちゃいけないんだよね。