Fairy
「 …終わりました。 」
『 も〜。おそ…、 』
私が小さな声でもごもご言っていると、游鬼さんはブツブツ言いながら振り返る。
でも一瞬目を見開くと、動きを止めてしまった。
どうしたんだろう、と心配になっていると、游鬼さんはすぐにニコッと笑顔になる。そんな游鬼さんを見つめ返していると、その顔が一瞬で近づいてきた。
その瞬間、唇に感じた微かな温もりと、車の中で聞いたのと同じような音が、リビングに小さく響いた。
『 紅苺ちゃん、超綺麗!ねぇねぇ、その服俺が選んだんだよ?センスいいでしょ〜。 』
「 いや、その、あ…き、きっ…、 」
固まる私に対して、游鬼さんはニコニコしたまま。
今日で二度目のキスをされ、さすがに動揺を隠せない。
『 いいじゃん、ちゃんとフレンチで我慢してあげたんだからね〜。 』
そんな私をよそに、游鬼さんはそんなことを言いながら呑気に笑う。
フレンチだとかなんだとか、そういう問題じゃない気がするんだけど…。
そしてそのまま、リビングの隅にある鏡の前に立たされると、私は初めて " 紅苺 " を目にした。
緩く巻かれた髪に、普段は絶対にしないような、少し濃くて上品なメイク。大人なドレスを身に纏って、まるで私じゃないみたいだった。
『 うん…やっぱり魅力的だ。 』
游鬼さんは私の唇にそっと触れると、耳元で小さくそう呟いた。その声があまりにも色っぽくて、耳にかかる吐息がくすぐったくて。
すると、鏡越しで晴雷さんの姿を見つけた。びっくりした…いつ来たか分からなかった。
『 うん、綺麗だね。 』
晴雷さんは私のそばに来ると、そっと呟いて私の髪をそっと撫でる。そのまま私の耳に髪をかけると、右耳にイヤホンのような何かを付けた。