Fairy
一通りの説明を聞き終えてから、私は覚悟を決める。
晴雷さんは、そんな私の頭を『 よし。 』と優しく言いながら撫でた。

そのまま車から出ると、生暖かい風と共に夜の街へと溶け込む。
今まで、社会に引かれたレールを外すことなく生きてきた素朴な人間だ。こんな時間に、こんな場所に来るのは初めてで、少しだけ体が強ばった。




《 大丈夫大丈夫、リラックスしてね〜。 》

『 いいよ。そのまま、ターゲットを気にするような仕草で近づいてごらん。 』




游鬼さんはアジトで、晴雷さんは車の中で私のネックレスのカメラの映像を見ているのか、二人共落ち着いた声で指示を出し始めた。
きっとターゲットを気にするように見せかけるのは、近づくための罠だ。
チラチラとターゲットを盗み見ていると、何度が目が合う。そしてターゲットの横を通り過ぎようとした時、私は怪我しない程度に、わざと足を捻らせた。

よろついた体を、ターゲットが慌てて支える。
お酒と煙草の香りがフワッとして、相手が大人の男性なんだということを自覚した。




『 よし。 』




私がターゲットに手を添えたところで、何かを確信したかのように晴雷さんの声が聞こえる。


よかった、上手くできた。
そう安心しながら、私はターゲットを見上げた。




[ 大丈夫ですか? ]

「 すみません…大丈夫です。ありがとうございます。 」




すごい、本当に話し掛けてきた。

そう思いながら、私は慌てて体勢を直して会釈をする。
ターゲットは[ よかった。 ]と柔らかく笑って、私に目をじっと見つめた。


…どうしよう、このまま次に何をすればいいんだろう。




『 そのまま、帰るようにして歩いて。 』




そう思うと晴雷さんの声が聞こえ、私は不思議に思いながらも足を進めた。
< 35 / 105 >

この作品をシェア

pagetop