Fairy
このまま帰ってしまったら、ターゲットを誘導する以前の問題だ。

でもその瞬間、腕に感じる柔らかい力。




[ よかったら、一緒に飲みませんか? ]




振り向いたところで、その力がターゲットの手だと言うことが分かった。
私は作った笑顔で、出来るだけ大人っぽく見えるように「 是非 」と笑う。そのまま手を引かれると、近くのバーへと連れていかれた。


…こんなところ、初めて来た。

そう思いながら、お店の中を見渡していると、ターゲットは慣れたようにお酒を頼み始める。
私もどれにしようか悩んでから、少し弱いお酒を選んだ。




[ お酒、弱いんだ? ]

「 へへ、ちょっとだけ。 」




そう言って笑ってみたものの、本当は『 あんまり酔いすぎちゃ駄目だからね。 』と晴雷さんに言われたからだ。
お酒がそんなに強くないのは事実だけど、酔ってしまえば仕事にならない。

差し出されたカクテルを受け取り、小さく「 乾杯 」と言ってグラスを交わした。




[ 名前、なんて言うの? ]

「 え?あ……カナ、って言います。貴方は? 」




思わず、紗來、と言いそうになると『 適当に作った名前で答えて 』と游鬼さんの声が聞こえたため、慌てて偽名を名乗る。
ターゲットは[ 可愛い名前だね ]と言いながら、再びお酒を喉に流し込んだ。


そこからは、あまり怪しまれないように他愛もない会話を交わしていた。
彼の名前は、朝比奈 龍一郎(あさひな りょういちろう)さんで、とある会社の社長を務めているらしい。だからか、身につけているものも少し高そうなものだった。


私のことも聞かれたため、晴雷さん達の指示に従って、24歳のOL、という事にしておいた。
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