Fairy
『 愛なんてものは、幻想だよ。 』
『 紗來、起きて。遅刻しちゃうよ。 』
ここに暮らし始めて三日目。私は、晴雷さんの声で目を覚ました。
パチッと瞼を開けると、カーテンから差し込むのは太陽の光で。ベッドの横には、私を起こしている晴雷さんがいた。
あぁ、朝が来たんだ。そう思いながら、目を擦って起き上がる。
眠りについた時間が遅かったからか、いつもよりも頭が回らずに、ボーッとしていた。
顔を洗ってから、洗面所の鏡を見て歯を磨く。
すると隣に無言のまま狂盛さんがやって来て、歯を磨き始めた。
游鬼さんはまだ寝ているのか、声すら聞こえない。
『 行きは僕が送ってくから。 』
「 あ、はい…ありがとうございます。 」
昨日のことを思い出して恥ずかしくなりながらも、私はちゃんとお礼を言った。
向こうはなんとも思ってないんだろうなぁ、なんて思いながら、さっそく準備に取り掛かる。
クローゼットから白シャツとジーパンを取り出して、軽く化粧を済ませる。
いつもは結ばない髪を、今日はなんとなくハーフアップにまとめた。
鏡に映る " 紗來 " を見て、小さく「 よし。 」と呟く。
玄関へ向かうと、狂盛さんは既に靴を履いて私を待っていた。
『 行くよ、紗來。 』
「 あっ、はい! 」
私も急いでスニーカーを履くと、狂盛さんはそれを確認してそう言いながら扉を開ける。
急いで外に出ると、曇り空から雨が降ってきていた。
早く梅雨明けないかなぁ…。そんなことを思いながら、車の助手席に乗り込む。
フロントガラスに雨粒が当たる音が心地よくて、また眠くなってしまった。
すると、狂盛さんがスッと左手を差し出してきた。
その手を見てみると、何やら鍵のようなものがあって。
それを受け取りながら狂盛さんを見ると、彼は何も言わずに左手を引っ込めた。