Fairy




「 あの…これ、何の鍵ですか?」

『 そのうち分かるよ。 』




ちゃんと答えてくれたものの、狂盛さんの言葉に疑問は増えるばかり。じっと鍵を見てみるけど、それが何の鍵なのかは全く分からなかった。

その鍵をズボンのポケットに仕舞うと、そのまま大学へ着く。
狂盛さんは私を見て『 行ってらっしゃい。 』と言うと、そのまますぐ帰ってしまった。


中に入ると友人に会い、挨拶を交わした。




[ おっはよー!ねぇ、昨日の夜大丈夫だった? ]

「 えっ? 」




友人の口から発せられた、何気ない言葉。
だけどその言葉に、私は思わず一瞬固まってしまった。

だって昨日の夜、私は殺し屋の仕事をしていたから。
正確に言うと殺したのは晴雷さんだけど、私だって、人を殺すことに関与してしまった。




[ なかなかLINE返ってこないからさ〜。 ]

「 ……ごめんごめん、寝ちゃっててさ! 」




…私は今 " 花咲 紗來 " だ。

頭の中でそう繰り返しながら、私は友人に嘘の笑顔を見せた。




[ そういえばさ!今日は紗來の " 愛しの " 佐野くん、居なくない? ]

「 もうっ、やめてよ!佐野くんはそんなんじゃないから! 」




こうやっていじられるのはいつもの事で。
否定しながらも、嬉しくて思わず笑ってしまいそうになる。

あぁ、私今、普通なんだなって思った。どこにでもいるような、普通の女子大生。
昨日の夜ターゲットとお酒を飲んだのは、唇を重ねたのは、そのターゲットが殺される所を見ていたのは。




全くの別人だ。




私はそう思うことで、大学に通うこの時間は殺し屋の自分を忘れさせた。

その後、いつもなら必ず廊下ですれ違う人がいない。
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