Fairy
游鬼さんに聞くと、彼はその青年の前にしゃがみ込む。

かなりの至近距離でその青年をじっと見つめ、青年は嫌そうにして顔を歪めた。そして弱々しい力で游鬼さんの胸板を押すと、ようやく口を開く。




『 なんすか…。てか、お兄さん達こんな事していいんですか? 』

『 いいのいいの、ただのあーそーびっ。それに、君だって助けられたでしょ? 』




青年の咳混じりの言葉に、游鬼さんはひひっ、と笑いながら答える。
相変わらずその思考は狂ってるし、異常だし。普通じゃないことなんか、そこにいる青年も気づいただろう。

その青年が游鬼さんの言葉に頷くと、游鬼さんは立ち上がって、私の方へ向かってくる。




『 俺の事は、殺さないんですか。 』




先程よりも声を張った言葉に、游鬼さんは足を止めた。
そのまま私の目をチラッと見ると、その青年の方を振り返る。







『 多分俺達、また会うよ。 』








この時は、何を根拠にそんなことを言っているのかが分からなかった。

游鬼さんは手についた血を拭い、青年は意味が分からないと言った様子で目を細める。
それは私も同じだ。私も青年も、今この時、彼のことを理解出来るはずもなかったから。




『 あ、でもこのことは内緒ね。もし誰かに喋ったら、もう会えなくなっちゃうからさ〜。 』




会えなくなる、とは、殺される、と言うこと。

その言葉の意味は怖いくらいにすぐ分かり、私は少しだけ身震いをする。だけど青年は、そんな私とは違って少しだけ楽しそうな表情を見せていた。


…本当に、ほんの少しだけ。




『 ほら紅苺ちゃん、早く行くよ〜。 』

「 へ?あ、はいっ! 」




游鬼さんはそのまま早歩きでその場から去ってしまい、私は追いかけるのに必死。
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