ベリムズ~お笑いも恋も~
○居酒屋・店内(夜)
   混み合う店内。
   早坂笑(23)が市村綾香(23)と飲んでいる。
   乾杯をする。
笑・綾香「カンパーイ!」
綾香「今日はライブ誘ってくれてありがとね! ショウちゃん!」
笑「いやいや、こっちこそ一緒行ってくれてありがとー」
綾香「本当ショウちゃん、大学のときから好きだよね、お笑い」
笑「うん、本当好き!」
   笑、指を立てる。
笑「それに見た? 今日の『無人』も最高におもしろかったよね!」
綾香「たしかにー」
   笑、グラス片手に語り出す。
笑「今日のネタは、私も初めて見たネタだったんだけど」
綾香「うん」
笑「まず設定があるあるだと思ったら、意外な展開になっていくのね。その発想力がまずスゴイ」
綾香「うん」
笑「出だしで言ってた内容最後で回収してくのもしてやられた感スゴイし」
綾香「うん」
笑「あと間。セリフがない部分も活きている感じ? スゴイ」
綾香「うん」
   笑、飲み物飲み干す。
笑「あとなんと言っても圧倒的におもしろい!」
綾香「本当好きねー」
   笑、店員さん呼ぶ。
笑「すみませーん! レモンスカッシュおかわり!」
綾香「ショウちゃんシラフでも酔ってるぽいよね」
笑「どこが?」
綾香「無自覚ならいいわ」
笑「?」
   綾香、手を打つ。
   笑、おつまみを食べる。
綾香「『無人』おもしろかったけど、顔ならダントツ『ベリムズ』が良くない?」
笑「あー、『ベリムズ』かあ」
   個室から深山柄(24)が出てくる。
深山「ちょっとトイレー」
   深山、笑の声に止まる。
笑「『ベリムズ』は、おもしろくないんだよね」
   深山、物陰から笑を見る。
笑「たしかに2人とも読モ出身の経歴があるから顔もスタイルも良いけど、笑いはなあ」
綾香「まあ……たしかにネタはそこまでじゃなかったね」
   深山、力が抜けていく。
   笑、おつまみを食べながら呟くように。
笑「もったいないんだよなあ。せっかく素材が良いのにうまく笑いに転換できてないのが……」
綾香「でもあのビジュアルで笑いもうまかったらさらにモテるだろうねえ」
笑「綾香ちゃん! お笑いはモテるためにあるんじゃないよ!」
綾香「ショウちゃんお笑いは笑いが大事なタイプだもんね」
   綾香、手の中でグラスを転がす。
綾香「でもお笑いやってる人も、好きな人も、みんながみんなそうじゃないと思うけどなあ」
笑「え」
綾香「ほらよく聞くし。『芸人がファンに手出した』って」
笑「(口パクパク)」
   笑、飲み物一気飲み。
綾香「おー、良い飲みっぷりー」
   笑、グラスを置く。
笑「今日はとことん飲むぞー!」
綾香「それお酒で言うセリフね」

○居酒屋・外(夜)
   笑、綾香と別れて歩き出す。
綾香「じゃっ、今日はありがとねー」
笑「こっちこそー、また行こうー」
   走ってくる音。
笑N「今日のライブ楽しかったなー」
深山「あの! お姉さん!」
   深山、笑の肩を掴む。
   笑、驚き振り返る。
笑「えっ」
   深山、笑と対面する。
笑「ベリムズの深山さん……?!」
   深山、笑の手を握る。
深山「俺に、アドバイスをしてくれませんか!」

○笑の部屋(夜)
   深山の連絡先が書かれた名刺。
   笑が苦笑い。
笑「まじかあ」
   回想。
   笑、戸惑っている。
   深山、名刺に自分の連絡先を書く。
笑N「急に話しかけてきたと思ったら」
   笑、名刺をもらう。
去って行く深山。
笑N「名刺渡していなくなるんだもんな」
   笑、名刺眺める。
   思い出す深山の笑顔。
深山「連絡待ってます!」 
   笑、布団に突っ伏する。
笑「(深いため息)」
   笑、綾香のセリフ思い出す。
綾香「でもお笑いやってる人も、好きな人も、みんながみんなそうじゃないと思うけどなあ」
笑「あんま考えたくなかったけど、綾香ちゃんの言ってたこと、案外あるのかも」

○笑の部屋(朝)
   笑、飛び起きる。
笑「うわあ! 寝てた!」
   深山の名刺を見て嫌な顔をする。
笑「うっ」
   笑、飲み物を飲みながら、リモコンでテレビをつける。
笑「テレビ、テレビ」
   テレビ画面に、深山と相方の指田透(24)が映る。
テレビの司会者(女)「今日は今をときめくイケメン漫才コンビ! 『ベリムズ』のお2人が遊びに来てくれましたー」
笑「(飲み物を吹き出す)」
   笑、口をふく。
笑N「タイミング悪いなー」
深山「(あくび)」
テレビの司会者(女)「あれ、深山さん眠そうですね」
深山「あ、すみません。昨日ちょっと寝れなくて」
コメンテーター(男)「テレビが緊張して?」
指田「女神さんから連絡が来なかったらしーですよ」
コメンテーター(男)「女かい!」
笑「女神、って」
   笑、テレビに近づく。
   テレビの中で、笑いが起きる。
深山「ほら、俺らって、顔が良いじゃないですか」
コメンテーター(男)「自慢かーい!」
   深山、苦笑い。
深山「そのせいで『顔が良いとなんでもうまくいくんだろ』とか言われることがあるんですけど、実際そうでもないんです」
深山「だから、中身も全部さらけ出せるお笑いの世界に飛び込みたかったんですけど……なかなかうまくはいきませんね」
   しんみりとした空気。
   指田、深山の肩を叩く。
指田「それで女神は?」
深山「ちょっ! 今良い感じの空気だったじゃん!」
   テレビの中、笑いが起きる。
   笑、名刺の横に飲み物を置く。
笑「女神って、私のことだよね。たぶん」
   笑、深山の名刺を持ってうなる。
笑「よし!」
   笑、名刺片手にメールを打つ。
笑「あんまり使わなそうなメールに連絡入れてやれ……!」
メール画面「相談くらいだったら、聞きます。」
メール画面「幸運の女神より」
笑「送、信っ!」
   笑、名刺をスマホケースに挟む。
携帯を持ってうなる。
笑N「これで分かんなかったらしょうがないもんね。うん、そういう運命だもん、仕方ない、仕方ない」
笑N「(頭抱え)ていうか女神だけでもあれなのに、幸運のとか! 恥ずかしくなってきた!」
   深山からの返信。
深山「お願いします。やっぱりあなたは女神ですね!」
笑「あっ……!」
   笑、恥ずかしそうに顔伏せる。
< 1 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop