ただ好きだから
始めの頃は、大人しく眠っていた夏月だがだんだんと寝返りが激しくなってきた。


たまに登坂の頭に夏月の腕がかすめる。


「寝相悪いなぁ。いつになったら、起きるのかな。いや、起こした方がいいのか」


そう言いながら、気がつけば、テーブルの上には空き缶が並んですっかり気持ち良くなっている登坂だった。


ソファーにもたれテレビを見ていたが、ついに睡魔に襲われうとうととしはじめていた。


夏月が目を覚ましたのはそれからすぐだった。


(んんーっ、喉渇いたぁ…)


ホテルの部屋で寝ていると思った夏月は、


(ん?どうやって、帰ってきたんだっけ?)

薄っすら目を開ける。


テーブルの上の空き缶が目に入った。


(え?私が飲んだの?)


飲んだ記憶のないビールの空き缶を見て驚き、額に手を当て考える。


(たしか、二次会の後、登坂さんに出会って、その後食事して…ん?その後、どうしたんだっけ)


それ以上が思い出せない。


「はぁ、またやっちゃった…」


自己嫌悪に陥って、また、目を閉じるが、恐る恐る、目を開く。


と、目を疑う後ろ姿が目の前に。


起き上がり、そぉっと顔を覗き込む。


(はぁっ)


思わず、息を飲む。


(登坂さん?寝てる?…ここはもしや登坂さんの部屋?)


そうっとソファーから降り、顔が見える位置に座る。


(あ、寝顔もかっこいい…。)


思わず、床に手をついて、うっとりと見つめていると、突然、登坂の手が夏月の腕を掴んだ。


「あぁっ!」


夏月がビクッとして、固まる。


「ごめん、びっくりした?」


「…う、うん…」


眠そうだが、笑いながら話す登坂。


夏月は手に持っていた肌掛けで顔を隠す。


「寝顔、可愛いかったよ」


夏月が少し顔を出して、登坂の様子をみると、じっと見つめられていた。


「酔ってる?」


「酔ってるよ」


そう言いながら、だんだんと距離をせばめてくる登坂。 


「ちょっ、近くない?」


ふざけているのかと思ったが、ついに、押し倒される夏月。


「ちょっ、え、臣くん?ま、待って、あの…」


焦る夏月。


すると、登坂の表情がちょっと不機嫌そうな顔になり、 


「タクシーから、ここまで連れて来るの大変だった」


とその一言で、夏月は、肝心なことを思い出した。


「あ…やっぱり、そうだよね。ごめんなさいっ。重かった?」


登坂の苦労をよそに、爆睡していた自分に反省する夏月。 


夏月が申し訳なさそうな顔をすると、登坂が勘弁してやるとばかりに、


「反省してる?」 


と言うと、夏月は、


「はい、反省してます」 


とうなずくが、


「夏月さん、いつもこんなにガードゆるいの?」


登坂のお説教は、まだ終わらない。


「えっと…いつもではないけど、時々…」


「はぁ、時々っ?」


「あっ、…ダメだよね」


とここまでは、夏月を心配している登坂だったが、


「そう、分かったならいいよ」


夏月はとりあえずお説教が終わったと思い、ほっとする。


が、登坂は夏月を押し倒したまま。


「…俺だって、…こんな可愛い子が無防備に寝てたら、…襲いたくなるし」


「え、可愛いなんて…」


と否定しながらも少し照れる。


「ん…可愛いし…ドレスも似合ってるし…色っぽい…」


「色っぽい?」


「うん、色っぽい」


登坂の唇が夏月の唇に軽く触れた。


再び登坂の唇が触れたかと思うと、愛撫のように優しく何度も触れ、次第に深いキスへとかわっていく。
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