ただ好きだから
唇が離れ、少しの沈黙。


「ごめん、我慢出来なかった」


「うん」


そして、二人で照れ笑い。 


「言っとくけど、俺、誰にでもこんなんじゃないから」


登坂が弁明するかのように言った。


「え?…プレイボーイなのかと思った…」 


と、当たり前のように言う夏月。


「やっぱ、そうみえるよね…。俺、こんな仕事してるから近づいてくる女の子も沢山いるし、綺麗な子もいっぱい周りにいるけど、誰でもいいわけじゃないから…」
 

「そうなんだ…ごめん」


先入観で判断してしまったことを反省しつつ考える。


「ん?誰でもいいわけじゃないのに、私は…いいの?」


夏月の質問に登坂は、
 

「ん…夏月さんは他と違うっていうか…」


「他と違うって?」


夏月の頭の中を疑問符が駆け巡る。


「待って、言ってる意味がよく分からないんだけど」


夏月は、登坂を押しのけて、床に座り直した。


「あの…この前会った時からずっと夏月さんのことが気になってて、今日、偶然会えたのは、大袈裟かもしれないけど、運命なんじゃないかと思って」


「え…運命?…」


「そう。運命」


夏月の心臓がドクンドクンと波打つ。 


「でも私達、まだ2回しか…」


夏月の言葉を遮るように、もう一度、登坂の唇が夏月の唇を塞いだ。


さっきよりも、甘く深い口づけに夏月は何も考えられなくなっていく。


「はぁ…」


夏月の吐息が漏れる。


唇が離れ、二人の鼻と鼻、額と額が触れ、頬と頬が触れ、最後にギュッと抱きしめられる。


夏月にはこれが現実のことに思えなかった。


「ねぇ、これって夢かな?」


「ん?夢じゃないと思うよ」


「じゃあ、まだ私酔っ払ってるの?」


「ん〜、酔ってはいるかも」


登坂は、笑いながら答える。


「…登坂さん…、私…」


登坂は、夏月の次の言葉に不安を感じた。


「あのっ、ダメなら、ダメってはっきり言ってくれていいから。俺が勝手に運命だって思ってるだけだし」


夏月は、登坂をじっと見つめる。


「じゃあ…、ダメ…」


「え、ダメ?本当に、ダメ?」


登坂が確かめるように聞く。


「だって今、はっきり言っていいって…」


「いや、そうだけど…」


夏月は焦る登坂を見てニヤっとした。


それを見た登坂は、はっとした。


「え、何?なんで、笑ってるの?本当は、ダメじゃないってこと?」


「うーん…ふふっ、そう、ダメじゃないってことかな」


夏月は嬉しそうに登坂を抱きしめた。
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