寡黙なダーリンの秘めた愛情
「まさか、赤池さんがあの事件の共犯者だというのか?」

誠也の問いに、美鈴は首を斜めにして肩をすくめた。

数年前、蓮が準備した偽のデータを盗んた上に、当時の情報管理室の男がそれをライバル会社に渡そうとした事件。

相手企業にそのデータが渡る寸前に、情報管理室の男が現行犯逮捕されたため、結局、共犯者は誰か、相手企業はどこか、その男が口を割ることはなく会社を退職してしまった。

その後、情報漏洩されているような気配は感じていなかったが、先日の会計監査において、巧妙な手口で会社の運営資金が横領されている疑惑が浮上してきたのだ。

気づいたのは、秘書課から会計監査室に移動した美鈴だった。

元々数字に強かった美鈴は秘書課ではなく、会計監査室の仕事を希望していた。

数年は副社長の秘書をする条件をクリアし、美鈴は4年前に会計監査室に異動になった。

そこでの2年間の実務を経て、税理士の資格をとった美鈴は、八雲メディカル全体の会計監査に関わるようになり、不正の影を発見したのである。

「私は、今回、赤池さんの美咲ちゃんへの嫌がらせを知ってから初めて松本歩花さんと赤池さんの交遊関係を知ったわ。私は八雲一族の関係者でしょ?警戒もされてるし、あまり職員の交遊関係には興味もなかったから、モブである松本さんが誰と繋がってるかなんて調べようとも思わなかった」

妊婦の美咲を罵り、重い荷物を持たせて立ち去った松本歩花。

「松本歩花が美咲ちゃんに接触してきたことで、赤池さんの企みと第3者が城之内家を陥れようとしている件が繋がったわ」

「松本歩花が美咲にしたのは今回のことだけか?」

色々突っ込みどころはあるだろうに、蓮の怒りは一貫して美咲に関する部分だ。

その軸のぶれなさに、美鈴も誠也も苦笑した。

「5年前に高校生だった美咲ちゃんの後ろで、赤池由利亜と兄さんが恋人同志で結婚間近と囁いたのも彼女」

それまで薄い笑みを浮かべていた美鈴の顔に怒りが点る。

「そして、彼女が持たせた荷物と投げた言葉のせいで、視界が悪い上に考え事をしていたせいで美咲ちゃんが階段につまずいて腰とお腹を打ち、気を失い、あげくに切迫早産で入院することになったきっかけを作ったのも彼女ね」

蓮はもう、我慢できずに

「美咲!」

と叫んでいた。

「美咲ちゃんは、点検中でエレベーターが使えなくて階段を利用しようとしたの。受付の矢野さんもその友達の松本歩花も、今日エレベーター点検があることは知っていた。確信犯ね。ホイットニーが帰社して不在の美咲ちゃんを探しに行ったら、階段に倒れていて意識がなかったらしいわ」

「蓮、待ちなさい!」

蓮は誠也が止めるのも聞かず、部屋を駆け出していた。


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