寡黙なダーリンの秘めた愛情
「わざわざお見舞いありがとうございます。お忙しいのにお仕事は大丈夫ですか?」

義一は勝手にベッドサイドに椅子を持ってくると、ドサッとそこに座って

「美咲が入院したと聞いてじっとしていられなかったんだよ。かわいそうに、蓮と結婚したばかりに苦労するよな。心配しなくても、俺と親父が助けてやるから安心しろ」

と言った。

「でも、まだ私、蓮くんと何も話していないし・・・。それに、お腹の赤ちゃんの父親は蓮くんだから、今後のことも、私一人で勝手な判断はできません」

美咲はできるだけ義一を刺激しないように、言葉を選びながら話をした。

「大丈夫。蓮の浮気の証拠や、経費の横領および情報漏洩の証拠は揃えている。城之内副会長も蓮の不正を黙認していた罪で解任されるだろう。だから、安心して美咲はこの離婚届と婚姻届にサインをするんだ。すぐに再婚の手続きに入る」

何が゛安心して゛なのだろう。

差し出された離婚届と婚姻届を見て、美咲は唖然とする。

「こ、困ります。私の一存では何も決められません」

「美咲、時間がないんだ。蓮は用意周到だから、こうしている間にも美咲が逃げられなくなるように画策しているはずだ。赤池由利亜と共謀して、お飾りの妻である美咲を利用している。俺はそれが許せないんだ」

詰め寄る義一から逃げたいが、ベッドに事実上縛り付けられている美咲は逃げ場がない。

「うっ、お腹が・・・」

とっさに思い付いたのは、お腹が痛いふりをして看護師か助産師を呼ぶこと。

「おい、美咲?大丈夫か?」

慌てる義一の隣で、タイミング良く胎児心音モニターの心音上限アラームが鳴った。
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