偶然が続けば必然です!? 年下彼氏の包囲網
1章
〇(夢)ホワイトアウト

10歳程度の男の子が泣いている。
琴葉は男の子の前に膝をつき、顔を覗き込んでいる。

男の子「……から」

琴葉「うん、わかった」

男の子「……絶対だよ」


〇マンション・琴葉の部屋(朝)

スマホのアラームが鳴る音で目を覚ます琴葉。

琴葉「うー……んん……」

アラームを止め、起床。

琴葉「……なんか、すごい昔の夢見た」
琴葉(あれって……中学の時に参加したホームステイのだよね?)

懐かしく思いながらも、どうして今更夢に見たのか不思議に思う。

琴葉「……あ、昨日、お母さんから電話があったから……」
琴葉(疲れてて電話切っちゃったけど、何の話だったんだろう?)

ベッドの上でしばらく考える琴葉。
だが、すぐに頭を切り替える。

琴葉「ま、いっか。なんでも」
琴葉(あの後、折り返しもメールもなかったってことは、そんなに大した話じゃないよね)
琴葉「仕事行かなきゃ」

〇オフィス・会議室(昼)

室内に男女複数。
様々な意見が交わされているなか、社員が報告を終えたところ。

女性1「――以上です」

沈黙の後、琴葉が口を開く。

琴葉「ありがとうございます。わかりやすかったです」
女性1「本当ですか! ありがとうございます!」
琴葉「けど、根本的なことを忘れてるんじゃないかしら」
女性1「え?」
琴葉「私たちのブランドは『日本らしさ』を売りにしているのよ? でも、この企画書は海外のトレンドばかり気にしている」
女性1「だって、流行に合わせないと……」
琴葉「流行に合わせた化粧品を作るだけなら、この会社じゃなくても出来るでしょう? この会社だからこそ出来ることを提案して欲しいと言っているの」
女性1「……っ」

株式会社支倉(はせくら)のコスメブランド『なでしこ』は、『日本らしい美しさ』を売りにしている。
伝統を大事にしつつ、今を生きる女性たちを応援するのがブランドコンセプトだ。

〇オフィス・廊下(昼)

会議が終わり、それぞれが席を立つ。
片付けをしてから会議室を後にした琴葉は、休憩室の前を通りかかる。

女性1「本条さんってなんであんなにあたりがきついんだろう」
男性1「でも仕事はできるじゃん」
女性2「仕事ができればいいってもんじゃないよ」
女性3「やだやだ、ああいういかにも仕事が生き甲斐です! みたいな人」

琴葉「…………」

琴葉への文句を言い連ねた後、話題が変わる。

女性2「そういえば、そろそろだっけ? コラボ先の会社から人が来るの」
男性1「可愛い子だといいなー」
女性3「なんで女って決まってるわけ? 私はイケメンがいい!」
女性1「私も! それで恋人がいないとなおいい!」
女性2「だよねー」
男性2「女ってそれしか考えてないのかよ」
女性3「そっちだって大して変わらないでしょ」
男性1「それは否定しないけど」

あはは、と笑いが弾ける。

琴葉(そんな話してるなら仕事しろ!)

琴葉は苛々としながらその場を後にする。

〇居酒屋・店内(夜)

会社からかなり離れた居酒屋。
店内は男性客が多く、それなりに賑わっている。
琴葉は1人カウンターで飲んでいる。
入店してからしばらく時間が経っている。

琴葉(どうせ、仕事が生き甲斐ですよ……)

昼間のことを思い出し、腹を立てている琴葉。

琴葉(……あー、でももう少し言い方、気をつければよかったかな……)

1人悶々と考えながら、グラスに手を伸ばす。

琴葉「あ……」

琴葉(もうお酒、終わっちゃった。もう1杯頼もうかな)

注文をしようとしたところで、隣から徳利を差し出される。

琴葉「え……」

視線を向けると、隣には外国人の男性がいた。

琴葉(わっ、すごいイケメン……)

琴葉「えっと……」

男性「もし、飲み足りないならどうぞ」

琴葉「え、でも……悪いですよ」

男性「いや、全然。むしろ、一杯飲んじゃった後なのでそれが気にならなければですけど」

男性「残すのも勿体ないのでよかったらもらってください。貴女、とてもいい飲みっぷりだったので」

男性に微笑まれ、恥ずかしくなる琴葉。

琴葉(いつから見られてたんだろう)

琴葉「それじゃお言葉に甘えて……」

男性「はい。あ、すみませーん。お猪口、もう1つもらえますか?」

店員「畏まりました」

琴葉「……日本語お上手ですね」

男性「本当ですか? そう言ってもらえると頑張った甲斐があります」

男性が嬉しそうに微笑む。
その笑顔に既視感を覚える琴葉。

琴葉(……? 笑い方、誰かに似てる? でも、誰だろう……)

店員「お猪口お待たせしましたー」

男性「ありがとうございます。どうぞ。注ぎますよ」

琴葉「えっ、いやいや、そこまでしてもらうわけには……!」

男性「手酌も寂しいですし、せっかくなので」

琴葉「はぁ……それじゃ……」

男性にお酒を注いでもらい、お酒を飲む琴葉。

琴葉「~~! はぁ……!

琴葉(美味しい!)

男性「……」

男性の視線に気づく琴葉。

琴葉「……えっと」

男性「あ、すみません。じっと見つめてしまって」

男性「やっぱり、いい飲みっぷりだなと思って」

微笑む男性に、不覚にもときめく琴葉。

男性「というか、僕、邪魔ですかね?」

琴葉「え?」

男性「最初からひとりで呑んでたみたいなので、ひとりで呑みたかったなら悪いなと……」

琴葉「大丈夫ですよ」

琴葉「ひとりで呑みたいっていうより、一緒に呑む相手がいないだけなので」

男性「それなら良かったです。あ、注ぎますよ」

琴葉「ありがとうございます」

琴葉(こんな風に誰かと呑むのって久しぶりだな……)

〇居酒屋・外(夜)

食事を終え、店を出た琴葉と男性。
店の前でふたりは別れの挨拶を交わす。

琴葉「今日はありがとうございました。あのお酒も奢ってもらっちゃいましたし……すみません」

男性「いいんです。あなたが呑んでくれなかったら残すことになっちゃいましたし」

男性「こちらこそ、ありがとうございました。楽しい時間が過ごせました」

男性「……また会えるといいですね。それじゃ」

立ち去る男性。
琴葉はその背中を見送る。

琴葉(また、か。このお店でならまた会えるかもしれないけど……)

〇オフィス・フロア(朝)

上司がとある男性を連れてくる。
ざわめくオフィス内。

上司「はい、皆、お待たせ」

上司の横に立つ男性を見て唖然とする琴葉。

琴葉(え……)

上司「彼はノア=ハーヴィー。イギリスから来るって噂になってた人だよ」

ノア「ノアです。皆さん、どうぞよろしくお願いします」

ノアがにこりと笑う。

琴葉(なんで昨日の人がここにいるの!?)
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