音楽のほとりで

ルイはまず、とりあえず外に出るところから始めた。

この1年、外に出ることもあったが、ろくにその景色を見ていない。

だから、まずはそこからだとルイは気合を入れる。

「南、僕買い物に行ってくるよ。何買ってくればいい?」

「どうして急に?」

「いいから、買ってくるもの紙に書いて」

ルイはあらかじめ用意していた小さな紙を南に渡すと、南はしぶしぶそれに食材や生活用品を書いていく。

「南は仕事でしょ? 何時に帰ってくるの?」

「7時には……」

いきなり積極的になったルイに、南はたじろぐ。

「じゃあ、なんか作って待ってるから」

その言葉を言うと、ルイは姿勢を正してふっと息を吐き、古ぼけた靴を履いて扉から外に出ていく。

その目にはサングラスはないし、頭には帽子はない。

「とりあえず、靴、新しいの買わないとな」

擦れている革は、まるでこの1年間の自分を表しているように見えて、彼は小さく笑う。

そして、靴屋に行くことを決めた。

「その前に髪を切りに行こうかな」

と、伸びて天然のパーマでくるんくるんとなっている髪の毛を伸ばしてそれを上目遣いで見ると、再度気合を入れて歩き始める。

青い空の下、街中をこうして気分よく歩いたのは、ルイにとってかなり久しぶりに感じた。

ルイは大きく息を吸うと、その空気はなんとも美味しく感じる。

とりあえず髪を切ろうと、ルイは目に入った美容院へと入っていこうとするも、なかなかその扉を開けられずにその付近を彷徨いてしまう。

すると、店の中から女性が扉を開けてルイの方を向いた。

「ボンジュール」

ルイは、突然挨拶されて戸惑うも、弱々しくではあるがそれに返す。

音楽一家で育ったルイは、フランス語はある程度話すことができる。

そして、ルイが髪を切りたいと言うことを伝えると、その人はまるで太陽のような陽気な笑顔で招いてくれた。
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