シュガーレスでお願いします!
「ふあっ……」
裁判所に提出するための書類作成に勤しんでいた私は、次から次へと押し寄せてくる欠伸をかみ殺し、眠気を我慢するために眉間にぎゅっと力を込めた。
(まったく……。朝からひどい目に遭った)
……夜だけならいざしらず、朝までも。
どうして、慶太はああなのだろうか。
慶太なんて大輔さんにこってり絞られてしまえばいいと心の中がどす黒い願い事で一杯になる。
慶太の友人であり、soleilの共同経営者である大輔さんは、今時珍しいくらい真面目な職人肌。
朝の仕込みに堂々と遅刻していった慶太に般若のごとく怒り狂うのは想像に難くない。
貴重な朝の睡眠時間を削られすっかり寝不足の私は、不機嫌マックスで目の前のキーボードを叩くのであった。
「比呂先生があくびするなんて珍しいね」
「阿久津先生……」
誰にも見られていないと思っていた大欠伸を、デスクに立てたファイルの隙間から阿久津先生に見咎められ私はしまったと額に手を当てた。
奥寺法律事務所では、所属する弁護士全員に専用の執務デスクが割り当てられている。
私の右隣は上野先生、左隣は五十嵐先生、そして真正面が阿久津先生である。
私のデスク配置は奥寺三兄弟に囲まれた神席と、女性陣からはもっぱらの評判である。
奥寺法律事務所には私と香子先生を含め8名の弁護士が在籍しているが、その中でも見目麗しく、実績も申し分ない3人の男性弁護士は一昔前のはやりの歌になぞらえて、奥寺三兄弟と呼ばれている。