君への愛は嘘で紡ぐ
私の言葉一つがお父様の仕事に影響すると教え込まれてきたため、今でも緊張する。


「男たちが放っておかないのでは?」
「いえいえ。円香にはもういい人がいますから」


お父様は笑って答えた。


いい人が、いる?
私に?


笠木さんのことは知られていないはず。
だとすれば、考えられることは一つしかない。


お父様は、許嫁を決めているのだろう。


「そうでしたか。おめでとうございます」


なにがめでたいのだろう。
勝手に決められて、それも、好きではない相手で、嬉しいことなど一つもない。


お前は一生逃げられないと言われたようなものだ。


「そのお相手というのは?」
「鈴原財閥のご子息ですよ」


会話の中で、どんどん知らないことがわかっていく。


鈴原財閥のご子息、鈴原洸希(こうき)さんは私の五つ年上の方だ。


あまりお話したことがなく、これといった印象がない。
話していたとしても、語弊を招く言い方になるが、興味がなかったため、覚えていない。


「円香。ここで待っていなさい」


お父様は振り向いて言った。


それは、私に聞かれては困る会話をする合図だった。


「……はい、お父様」


久しぶりに聞いた、自分の感情のない声。
< 116 / 228 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop