君への愛は嘘で紡ぐ
「俺のことは、忘れて」


何も考えられないでいたが、玲生さんが言っている意味はわかった。


「嫌です!」


泣き叫ぶ。
これで玲生さんがさっきの言葉を訂正してくれるとは思わないが、黙って頷くことはできない。


「お願いだ、お嬢様……俺はもう、お嬢様を幸せにすることが、できない」


玲生さんは途切れ途切れに話している。
その話し方に余計に涙が流れる。


「死んでいく俺のことなんか忘れて、他の誰かと幸せになってよ」


もう一度嫌だ、と言えなかった。


結局私は、玲生さんのお願いを断れない。


頷きたくない気持ちが強いせいで、俯いただけだった。
骨ばった手が、私の涙に触れる。


「お嬢様の笑った顔が、見たいなあ」


涙は止まらない。
それでも、玲生さんの最後の願いだと思い、口角を上げる。


「笠木さんは……わがまま、ですね」


なぜ玲生さんが私をお嬢様と呼んでいるのか。
そんなことは簡単にわかる。


二年前と同じように、冷たく突き放されている。


だとすれば、私はその願いを叶えることしかできない。
嫌でも、昔の呼び方をするしかなかった。


私が玲生さんの望み通りに呼んだからか、切なそうに微笑んでいる。


「お嬢様……俺と出会ってくれて、ありがとう」
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