君への愛は嘘で紡ぐ
「お医者さんは行っても大丈夫って。……どう、かな?」


俺が嫌だと言うと思っているのか、恐る恐る聞かれた。
それがなんだかおかしくて、笑みがこぼれる。


「いいじゃん、温泉。行こうよ」


本当に嬉しいのか、久々に母さんの満面の笑みを見た。
それを見るだけで、俺も嬉しくなってくる。


それと同時に、もっと母さんと会話をしておけばよかったと思った。


俺がやりたいことをやるだけじゃなく、母さんのことも考えるべきだった。


いや、これから考えればいい。
今までずっと好きにやってきたんだ。
もう、十分だろう。


「でもね、玲生……学校、休むことになっちゃうけど、大丈夫?」


長期休みまで待てば、とは言えなかった。
もし長期休みまでに俺の体調が悪化してしまえば、母さんの望みは叶わない。


「大丈夫だよ。俺が学校を休むのは今に始まったことじゃないし」
「そうだったね」


限られた時間でやりたいことをやろうとすれば、学校に行っている時間がもったいないと思うようになる。


そうなると、休むしかない。


「行きたいって言ってたのに、結構休んでない?」


親が笑って言う言葉とは思えない。
だけど、俺はそれにつられるように笑った。
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