結婚してみませんか?
(ふすま)の隙間から僅かに光が差し込んでくる。

「…朝?」

差し込む光で目を覚ました俺は、ボーっとしたまま天井を見る。

いつもと違う天井…。そうか、今は旅行中だった。

そうだ。恋ちゃん…。

隣の布団を見る。そこに恋ちゃんの姿はなかった。

ガバッと布団から起き上がり、(ふすま)を開けると、窓の外を眺めている恋ちゃんがいる。

「おはようございます。今お茶入れますね。」

俺に気づいた恋ちゃんは、急須にお茶っ葉とお湯を入れてお茶の準備をする。

「…おはよう。ありがとう。」

入れてくれたお茶を飲みながら、チラッと恋ちゃんを見る。

…いつも通り。昨日の夜の出来事は夢だったのか?

「そういえばさ、俺って極上の旦那様なの?」

「前に詩織が言ってたやつですか?あれは…智章さんは私にとって理想の人って言ったんですけど、詩織が少し誇張しちゃって。」

「あはは、めっちゃ誇張されてるし。でも理想って言ってもらえるのも嬉しいけどね。」

お茶を飲み終わると、恋ちゃんは立ち上がり髪の毛をアップで結ぶ。

「露天風呂に入ってきます。」

「いってらっしゃい。」

入口のドアに手をかけたところで恋ちゃんの動きがピタッと止まった。どうしたのだろう。

「あの…昨日は…ありがとうございました。」

俺に背を向けたまま言うと、そのまま部屋を出て行った。

「夢じゃ…なかった。」

恋ちゃんが部屋を出た後、俺は畳の上に大の字になった。あまりにも普通過ぎる恋ちゃんの態度に、昨日の夜の事は俺の妄想じゃないかと不安だったが、ちゃんと現実だった。

「それにしても、いちいち可愛いな…恋ちゃん。」

寝転がったまま左腕をおでこに当て、天井を眺めながら日に日に恋ちゃんにハマっていく自分を感じた。

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