結婚してみませんか?
「ん〜満足満足。」

夢中になって風景を撮影した。気がつけば昼前になっていた。そろそろ旅館に戻ろうかと思ったその時、何処からか鐘の音が聞こえてきた。

「結婚式か。」

鐘の聞こえる方へ行ってみると、チャペルウェディングが行われていた。恋ちゃんのウェディングドレス姿を想像しながら思わずニヤついてしまう。

ふとチャペルウェディングから少し離れた場所を見ると、撮影ポイントと言わんばかりの彩り豊かな花たちが並んでいる。

早速カメラを向けて撮影…と思ったが、フィルム越しに何となく思った。

「…この場所、見たことあるような?」

結局撮影をせずにカメラを下に下ろすと、何処で見たっけなぁと少し考え込む。

考えていると、ふとベンチに座る女性に目が行く。パッと見分からなかったが、よく見ると恋ちゃんだ。

何でここに?

俺と一緒にいる時は、眼鏡をして髪も一つにまとめ、殆ど化粧もしてない普段と変わらない恋ちゃんだったはずが、今ベンチに座る恋ちゃんはファッション誌に載っているようなお洒落な服装にきちんと化粧をして、髪の毛も巻いているのかふわふわとさせ、いつもとは違う雰囲気だ。

恋ちゃんはチャペルウェディングが行われている方を見ながら、何処か愛おしい人を思い浮かべているような表情をしていた。

何となく声をかけ辛い。

俺には見せない表情をしている恋ちゃんを見るのがなんか嫌で、クルッと後ろを向き視界から恋ちゃんを消した。

恋ちゃんは今、何を想っているのだろう…。

その場を立ち去ろうとした時、突然思い出した。

「…この場所。」

確認する為にもう一度恋ちゃんが座るベンチを見る。

この風景…間違いない。

以前、恋ちゃんに見せてもらった学生時代のアルバムの中にあった写真の場所だ。

< 36 / 58 >

この作品をシェア

pagetop