想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
佐倉さんそれは・・・大切な場所だという美術館に一緒に来たのはわたしが初めてだと、そう受け取っていいんですか。
もしそうだったら、うぬぼれてしまいそう。不意に涙腺がゆるみそうになって、あわてて奥歯に力をこめる。

好きなひとと、素敵な場所に出かけて、同じ景色を見ている。ただそれだけで、涙がこぼれそうになる。
思えば一回デートしただけなのに。

佐倉さんは、そのままわたしをまっすぐマンションの前まで送り届けてくれた。

「また明日」

「はい。今日はありがとうございました」
シートベルトを外して、ドアハンドルに手をかける。

美織、と彼がわたしの名を呼ぶ。ふりむくのと抱き寄せられるのが、同時だった。
まるでそこに磁力が存在するように、自然とくちびるを重ね合う。

車内とはいえマンションの前だ。いつまでもそうしてはいられない。なのにくちびるが離れるのを、物足りなく感じてしまう。
求め合う心と体を理性の力で懸命にとどめている。
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