想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
「居心地がいい空間であればあるほど落ち着かなくなるんだから、難儀な職業ですよね。やっぱりコンベックスとスケッチブックも持ってきたんですか?」

「こればっかりは手放せない」

「よかったらご飯前にふたりで測りませんか? ひとりより早いと思います」

「それいいな」

佐倉さんがスケッチブックにラフ画を描き、わたしはコンベックスを手に彼が指示する場所を採寸して、サイズを読み上げる。
営業さんについて現場を回った経験が役に立った。

豪奢なホテルではなく、たたずまいは簡素で部屋のサイズもこぢんまりしている。なのになんとも居心地がよい。自分だけの秘密基地にこもっているようなくつろぎを感じることができる。

「広縁をべつにすると、この客間って四畳半しかないんですね」

秋近き心の寄るや四畳半、と佐倉さんがつぶやく。

「えっと…」

「松尾芭蕉の句。四畳半の情景を詠んだものだ。
半畳がポイントだな。半畳を中心に畳を敷くことで、空間に広がりと流れが生まれる。かっちり膝詰めせずに半畳ずらす。それだけでゆとりと安らぎを感じられるんだ」

たったそれだけのことで、空間はその表情を変える。
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